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第29話(樹目線)

大山の表情は固く、話すべきかそうでないかを躊躇っている様子に見えた。 「……杉本はα恐怖症になっています。なので、不用意に近づかないでください。まだ、性別検査をしていない姪っ子ですらαだと勘づいて受付ません。ただの気まぐれでちょっかいを出すのは今後、やめていただきたいだけです」 「……雅は……今、どこにいるんですか?」 「お答えする義務はありません」 この言い方だと、おそらく家や会社では無いのだろう…… ――入院してる……? そんな不安がよぎる。大山の態度は明らかにおかしい。RINEに既読がつかなかったりすることは確かに多い。が、朝起きてみると、夜中に既読がついてることは多々あった。返信はなかったけれど…… けれど、今回は既読もつかなければ、電話をかけてもここ数日は電源すら切られてる状態だ。 なにかの異変が起きてることは間違いなさそうだ。けれど……大山は話す気はないようだし、興信所でも使うか?と思いつつ、ネットを見ると…… 『話題のCMΩ発見か?!』 とあのCMの記事が載っていた。背中の周りには飛び散った精液らしきものと、後頭部と肩の部分が写った写真が添えられている。どう見ても合意では無い状態の雅の後ろ姿……たぶん、輪姦されているだろう画像を見て頭に血がのぼった……あれだけ注意深い雅が何故?!と。 しかもその記事には、雅を汚す言葉があった。 『実はビッチΩだった?!』 と添えられていたのだ。 ――自分の『運命の番』を汚された…… 雅の処女は確かにオレが強引に奪った。けれど、その責任をきちんととるべくの決意の上だ。雅があの時に頷いていてくれていたら、すぐにでも『番』にしていた。 ――出逢った瞬間に恋に落ちた……この人はオレの『唯一無二』であり、『運命の番』だとすぐにわかった。 だからこそ、雅の気持ちを尊重して、ゆっくりとこちらに気持ちを向けてもらおうと思っていた。あれだけ激しく発情しておいて、運命を感じてない、とはよく言えたもので、ヒートの時は呼吸すらままならなくなる……そこまで酷いヒートは初めて見た。 そんな話は聞いたこともなかった。『運命の番』には稀にヒートが激しく、触れ合わないと命に関わるほどの情熱的な愛を交わすことがあると知識としては持っていた。 だからこそ、呼吸困難で倒れていた時に、唾液を飲ませてみると、少し呼吸が出来るようになったのを見て、確信したのだ。抱いて喘がせて、快楽を与えれば与えるほど、顔色も良くなり、落ち着いて眠りに落ちた。 『なんで、強引にでも番にしなかったのか?』 大山の悲痛な叫びには、慈悲が籠っていた。 ――雅を傷つけるものは許せない…… そんな思いが胸の中を、ドス黒いなにかが蠢いていた。たぶん、大山が何も言わなかったのは、オレがαだからだ。それに、まだ、『番』契約を交わしていない、他人なのだ。 オレを信用していないのだろう。が、本来なら殺してやりたいほど憎い。自分が犯罪者になって、雅に会えなくなることの方が、辛いから、そんなヤツらは社会的抹殺をするのが1番早い。 ――さて……どうやって炙り出すか…… その日のスケジュールさえ手に入れば、ある程度の情報は手に入るはずだが、大山は教えてくれないだろう。 でも、自分は芸能人だ。あっちこっちで仕事をこなしていれば、色んな噂話や情報も入ってくる。いるもの、いらないものを頭の中で分類して頭の中に抑えておく。付き合いや繋がりが、多方面で役立つ業界だ。 雅の状況も、思わぬところから舞い込んできた 「ちょっとぉ〜!なに?その美味しい話!!そういう時は私も呼んでって、いつも言ってるのに!!本当に勝手なんだから!!」 叫んでいたのは、モデルの藤沢沙耶香だった。αの女性らしく、スラッとした躰に豊満なバストを売り物にしているモデルだ。年齢的にグラビアからテレビの方にシフトチェンジしてる最中の美女だ。 「本当に〜、あのCMのΩくんなら、私も美味しく食べたかったのに!!私が1番良くしてあげる自信あったのに!!」 ――は?! 「ちょっと、その話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」 その言葉にいてもたってもいられなくなり、そのスタッフと、藤沢が話してる輪の中に割り込んで行った。ニッコリと極上の笑みを添えて。 「……あ……嶺岸さん……」 スタッフが青ざめていくのを睨みつけた。

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