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第30話(樹目線)

雅の現状を詳細に話してくれたスタッフを殴りたい気持ちを抑えて、静かに話を聞いた。 うちの一人は『番』にしたい、とまで言い出していた。雅が魅力的なのはわかるが、そんなことをしておいて、雅が納得するとは思えない。 そこにいた藤沢沙耶香を始めとする話を詳しく知らなかった人間は、5人を軽蔑の目で見始めていた。そこにはαもβもΩもいた。 藤沢沙耶香もスキャンダルの女王ではあるが、本気の恋愛はしない食い散らかし系ではあるものの同意なしのアバンチュールはしない。 「ちょっとぉ、そんなやり方だったなんて聞いてない!!気絶させて拘束具使うなんて、あなた達、それは犯罪じゃない!!それにその子、そんな状態にして……どぉ責任取るのよ?」 そして雅は今、心を閉ざしていて、αが近づくだけで暴れるくらいには傷ついていることも。 「写真を撮ったのは誰ですか?週刊誌に売ったのも……どなたですか?」 ひとりが手を上げる。ただ、見つけた、ということをSNSに載せてしまったのだと。翌日には削除をしたが、すでに手遅れだった……と。 拡散されて、どこかで画像を保存されていたのだろう。売ってはいないが結果的にそうなってしまったのだと。週刊誌からしたら、出費なしにネタが手に入ったのだから、ラッキーにほかならなかっただっただろう。 オレはそいつだけはなんの前触れもなく、思いっきりぶん殴らせてもらった。滑るように転がっていくソイツを見て、マネージャーや、他のスタッフも止めに入ってくれたが、怒りが収まるまでに時間を要した。ケモノのような呼吸をしたのは初めてだ。 ソイツとオレを引き離そうとオレが引き摺られていく。 「彼の名誉を傷つけた責任はちゃんと取れ!」 オレが叫べたのはそこまでだった。口を塞がれただからだ。冷静になって考えればわかることも、頭に血が上った状態では判断が鈍ることを改めて知った。雅と知り合ってから、感情の浮き沈みが激しすぎるのだ。本当は 「彼はオレの『番』になる人だ!!」 と言ってやりたかったが、それはそれで、オレ自身の初スキャンダルになるし、雅にも迷惑がかかる。本当に『番』になってから公表するべきことなのだから。 「……樹くん、あなたらしくないわよ?彼が好きなのはわかるけど、大切だからこそ、守らなきゃならないルールがあることもわかって。 今は私だって頭にきてるわよ?でも、よく考えて。今はその時期ではないし、彼に迷惑がかかるの。一般人の彼を貴方のスキャンダルに巻き込む気?憔悴してる彼をマスコミがこぞって病院に押掛けるのよ?わかる?」 宥めるようにマネージャーの笹山が言う。笹山は所謂(いわゆる)オネエだ。すごい優秀マネージャーだ。 「沙耶香さんに確認してもらったら、沙耶香さんのご実家の病院に入院しているそうよ。樹くんが会いたいなら、時間を作ってあげる。ただし、今は近づけないのを覚悟しなさいね?」 しゅん……と項垂(うなだれ)れるオレを見て、やっと冷静さを取り戻したことを悟った笹山さんは病院まで教えてくれた……調べてくれた…… 「……マサミさん、本当にありがとう……」 こうやってオレを見守ってくれるスタッフがいることにまずは感謝しなきゃならない。 「……あら、貴方からそんな言葉が聞けるなんて、明日は雪かしら?」 「この時期に雨は降っても雪は降りませんよ」 ――オレは上手く笑えているだろうか……? 「……落ち着いたら会いに行きますよ……」 まだ、オレにはその資格がない…… 「藤沢総合病院」 確か、藤沢沙耶香の弟は藤沢由多加だったはずだ。高校生の頃の天敵のような存在だ。 とりあえず、今は回復を祈願して少しでも回復すると願うことしか出来ないようだった。 せめてオレだけでも近づかせてくれることを願うしかなかった。大山には怒られそうだが…… 近づいて話したい……雅の壊れた心を癒したい。そのためには溜まってる仕事を早く片付けて、付き添いができるなら、1日丸々休みが取れるくらいの気持ちで仕事をこなしていこうと決めた。

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