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第31話
――たくさん泣いた。泣けば、心が浄化されるんじゃないか?そう思ったけど、何も変わらなかった……躰が重くて動けないんだ……
そう思っていても、汚された躰は変わりない。色んなαの匂いがした。僕の発情 に引きずられて匂いを発していたんだろう。
でも、嶺岸みたいな匂いじゃない。それぞれ匂いは違ったけれど……あの時、そこに慈しみはなく、ただ、欲をぶつけるだけのαの匂い……
もちろん嶺岸だって、セックスの最中はそういう匂いを発していた……でも違う……『番』にしたい、と言ってたヤツもいたけど、どの匂いも似合わない香水をつけてるような違和感しか無かった。
Ωがそれぞれ匂いが違うように、αも違うんだ……と思った。でも、そこに好きな匂いはなかった。父さんや兄さんみたいな怖い匂い……
嶺岸の匂いが1番好きだ。そう思った。
でも、僕は汚れてしまった……嶺岸の時には思わなかったことだった。なんで、彼に抱かれ続けた1週間には罪悪感がないんだろ……?
でもこれだけ汚れたら、誰が相手でも変わらないんじゃないかな……?
躰で仕事を取ることも可能だろう……
1週間、別々の相手と寝て、仕事を取るのか?
そんな器用な生き方はしてこなかった。どんな形であれ、心が疲弊してしまうだろう。
もう、母さんにも迷惑をかけたくない。遠くで母さんの泣き声がした気がした。親不孝な息子でごめんね……
でも僕は生きてることに疲れてしまったよ……
こんな体質だから、面倒くさかったでしょ?
もう、解放してあげる。可愛い孫も産まれたわけだし、その子を大事にしてあげて……?
僕も見た時は、ぷにぷにの暖かい赤ちゃんが可愛くて、すごく可愛いと思ったんだ。
でも、僕はあんな可愛い赤ちゃんを産んだとしても育て上げる自信はないんだ。
誰かの『番』になって、子供を産む未来なんて考えてなかったから。それは今も変わらないんだ。だから、兄さんの子供を今度は守ってあげて?αかΩか分からないけど、もし、Ωだった場合には、思春期が大変だと思うけど……
僕のような特殊な体質じゃなければ楽だと思うよ?抑制剤でヒートも抑えられるし、何日も前から準備する必要もない。でも、僕は年々、薬の効果は薄くなっていってたのは事実なんだ。
僕は強がっていたんだ。抑制剤を飲んでも漏れる匂いに戸惑いながらも、それ以上の強い薬に移行する勇気もなかった。仕事が好きだったんだ。薬は強くなればなるほど、眠気が来てしまう、と聞いていたから、慣れた薬なら、そんなことも無いし、通勤も人が少ない時間帯だから、平気だとタカをくくっていたんだよね……
こんな、薬を飲み忘れるなんて凡ミスをしなければ……って、後悔ばかりしているよ。
もう、誰とも会いたくないし、穢れた自分を見せたくもない。話したくはなかったけど、大山さんに色々聞かれたから、答えたんだ。
でも、話したら少しスッキリしたのかな?
今は温かさに包まれてる気がするよ。変な話だけどね、子供の頃の無垢な状態になれた気がするんだ。でも、αが怖い気持ちは変わらない。
あの時の兄さんの眸が忘れられないんだ。
たった一度のことだったのに……あの時のあの眸があまりも怖かったんだ……子供心に食べられちゃう……って思ったんだ。それがセックスとは結びつかなかったけど……
僕は母さんに、孫の顔を見せてあげることが出来ない、出来損ないの息子なんだ。
だからね、母さんも第2の人生を謳歌して欲しいんだ。僕のことに囚われない……その為に僕は一人暮らしを始めたんだよ?
もう、母さんの手は煩わせないから……
もう、泣かずに幸せに生きてね……?
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