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第35話

『僕の唯一無二で運命の番』 そう言いきった嶺岸。ある意味、そこまで思われたことは無いから感覚はわからないけれど。その逆にそこまで思ったこともないから…… Ωとαの間にだけある『運命の番』出逢った瞬間にわかるというが、他の人には感じないものがあったのは認めるし、それが運命なのかわからなかった。βにも、この人だ、と思うことがあると言うが、それも感覚が分からない。だというのに嶺岸 樹は芸能人なのに、その感情を隠しもしない。 嶺岸のところにいた時も「好きだ」「愛してる」「噛んでいい?」の応酬だった。 初めてかどうか聞いた時、少し戸惑った顔をして否定し初めてだと言った。その事に不信感を抱いてこの人ではないと否定した。嘘をつかれるのが嫌いだったから。たとえ流されたとしても、本当のことを言って欲しかった。 Ωに流されてしまったなら、それを言えば良いのに……初めての発情に流されるαは多い。兄がいい例だ。 あの人の場合はその後も狙っていたようだが、母の協力の元でそれを回避していた。近親相姦なんてとんでもない。そう思っている。そこだけは譲れない。 けれど、αがΩのヒートに流されてしまうのは本能では抗えないことを知った。いや、知ってるはずだった。だからこそ本当のことを聞きたかった。誰とどんな関係になったとしても、合意ならいいと思う。 僕はあの5人にはたぶん最初から狙われていたと思う。流されたにしては冷静だった。囲まれた時にはαの匂いはしなかったのだから…… 今更ながらに思う。そこで嶺岸が本当のことを言ってくれてたなら、番になってもいいかも良いかも……という気持ちにはなっていたかもしれない……あの時の自分は頑なだった。本当のことを聞いても『番』とまではいかなかったかもしれない。 でも、彼ほどのαなら、男だろうが、女だろうがよりどりみどりだろう。 遠くから声が聞こえる。嶺岸の声だ。 『世界の誰が許さなくても、オレはお前を許してやる。だから、早く還ってこい。どんなことがあったっておまえはオレの『唯一無二』だ愛してることには変わりない。お前が望むなら社会的に抹殺しても構わない。それだけおまえが大切なんだ……雅がいない世界なんて考えられない。早く話したい、触れ合いたい。本当に好きだ……愛してる……』 優しい声と、暖かい温もりとあの時と同じ匂いを感じる。この人の元では、自分は甘えても許されるのだろうか。 今になって、嶺岸のことが好きだと思う。恋愛としてではないが、か僕の本当の姿を晒してもいいくらいには許されていると感じる。 その言葉にも温かさを感じる。人の体温の温もりだ。温かさといい匂いを感じる。これは嶺岸の匂いだ。すごく心地いい……決してここが寒いわけじゃない。でも暖かくもない。 僕も応えるべきだろうか? ――暖かい…… 僕の求めた『唯一』彼が求める『唯一無二』 彼を信用しきれなかったのは僕。あんなにキツい発情を起こしたのも初めてだったが、他を知らなかった。だから、他の人でもそうなると、思っていたから。 でも、実際は違った。αのヒートにあてられても呼吸は出来たし、躰は熱かったけど、嶺岸の時とはやっぱり違った。 恐怖と嫌悪感に支配された。その中で繰り返されるノットが出た状態での長い射精…… 本当は何人いたの?というくらいお腹がパンパンになるほど精液を注がれた。 全てに疲れてしまった僕は、ひたすら泣いた。指1本動かないほどに疲弊した躰は、早くこの汚れを落としたいのに、起き上がることすらままならなかった。 しばらくして飛び込んできた大山が僕のみっともない姿を見て愕然としていた。 穢れを落としてくれて、病院まで連れてきてくれた。僕の記憶はそこで途切れている……

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