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第43話(大山目線)
杉本が入院をして5ヶ月が経過した。
さすがのあたしも心神耗弱状態だ。
――杉本の声が聞きたい……はにかむような笑顔が見たい……話したい……
あたしが見たいのは、あの男に見せるような無邪気な子供のような表情ではない。
仕事に真摯に向き合って、一緒に悩んで、バカやって、時間がないからって、出前の弁当を頬張りながら、時には喧嘩できる杉本だ。
仕事が一段落すると、一緒に酒が飲める仲間だ。あたしが車なのと、飲みすぎる傾向にあるから、とわざわざ、あたしの家の近くで飲み会をする。ヤツ曰く
『遠くで飲むと送っていくのが大変だからですよ。運転代行だって、うち通過してわざわざ送って、徒歩で帰る身にもなってくださいよ。』
と困った顔で笑う。そんな杉本だ。
生きてはいるが、今までの杉本を失って初めて気付かされることがたくさんあった。あんなにあたしはフォローされてたんだ……気遣いが出来て、あたしより先に挨拶を回って、あたしがミスったところがあって、それにあたしが気づいてなくてもそっと訂正してそのことは何も責めない。喧嘩っぱやいあたしを宥めるのも彼で相手の不快を取るのも彼だった。
今になって思う。アイツがΩじゃなくて、普通の男で、αでもβでもいい。なんならあたしがαでもいい。そんな関係だったら、きっと……
――あたしは……杉本が好きなのか?
いやいや、まさか。でも、あたしはバイだから、道具さえ使えば抱くことは出来る。
しかも妊娠させる心配もない。あの匂いだけで、あたしだって欲情出来るくらいだ。部屋に踏み込んだ時、正直クラっとした。気分がそっちの方向に向いた。だから、帰る時、セフレの1人とコンタクトを取って欲望を発散した。
今になってαの女性が羨ましい、と感じる。
α、と言うだけで今は拒否反応を起こしてるけどあんなことさえなければ、性別だけで言えば自然の夫婦になれたはずだ。
――って、何考えてんだ?あたしは……
うちの会社には社長しかαはいない。αだったら出逢うこともなかっただろう。
LGBTのセフレだっているのに。
βで同性愛者、αの女性、トランスの女の子。あたしはリバだから、抱くのも抱かれるのも好きだ。αに発情させられるのも嫌いじゃない。
女同士だから、女のツボを心得ているところが良いし、βやトランスの子なら男のようにイクことがないから、ペ二パンでイキすぎてトリップしてぐちゃぐちゃになってイキまくってる姿が最高に可愛いと思ってる。αの親友もトランスの子も、こちらをイカせまくってくれるから気持ちイイ。
――欲求不満なのかな……
どうもあの時の杉本のことを思い出してしまう。そういえば、しばらく誰の相手もしてないことに気付く。
そんな想いから、男性Ω専門の風俗に手を出した。どう足掻いたって、杉本は手に入らない。
それは峰岸だけがαで杉本の前で許されている理由だ。徐々に杉本は戻ってこようとしているんじゃないか?と思う。
さすがに、あの強姦 から5ヶ月が経過すると私も疲れてきてしまっていた。
杉本の元に通いすぎて、自分の欲求不満が爆発した。セフレの子たちから相手を決めれば良かったんだろうけど、見つけた時の杉本の姿が脳裏に焼き付いて離れてくれないのだ。
部屋に充満したあたしの好きな香りは、暴力的にβのあたしまで発情させた。病院からの帰りにセフレの1人と連絡を取って、αの女性を呼び出した。あたしには杉本の匂いがベッタリついていたから、簡単に発情状態になった。彼女の躰中を舐めまわしてから、愛撫をされてツッコまれるのが好きだが、杉本の匂いが強烈すぎて、最初から散々啼かされる羽目になった。
でも、それが気持ちよくて、キスを強請りながら揺さぶられた。いつもあたしがやってる理性を飛ばしてくれる相性のいい相手だ。服や髪に染み付いた匂いに発情がなかなか収まらず、一晩中抱き合った。αが相手の時は避妊はする。完全ではないが、アフターピルを持ち歩いている。彼女は別に番になってもいい、と言ってくれるが、程よい距離感が良い、と今のところは断っている。別の女の子を抱きに行ったら浮気になってしまうじゃないか。
あたしはリバだから、抱くのも抱かれるのも好きなのだ。ただ、αの彼女ー玉妃 ーと一緒になるなら、あたしが妊娠した時だと思ってる。
抱いてきた後だからかな……玉妃に抱かれたい、と思うようになってきた。玉妃の会社だったら、源氏名のミヤビも安定して働けるだろうが玉妃に食われる可能性も高い。玉妃の会社にはαもβもΩもいる。あたしのスーツは全て玉妃デザインのオートクチュールだ。なにかのサプライズ毎にスーツを渡してくる。Ωでもないあたしに、すごく好意を持ってくれている。
月に数回、抱かれてるから、サイズはいつもピッタリだ。
玉妃との出会いは大学の頃からだ。関係を持ったのも最初の大学時代の飲み会の後だ。目が覚めて事後だと気づいた時に
「初めて会った時から好みだと思ってたんだけど、抱いたら可愛すぎて孕ませたい、って思ったの。卒業して、お互いに自立出来たら、私の子供を産んでくれない?」
「あたし、βだよ?」
「別にαだから、Ωを選ばなきゃならないなんてことは無いでしょ?そんな夫婦、そこら中にいるわよ?圧倒的に少ない女の子のΩを探すより、目の前の好みの子の方が私は好きよ?」
基本男を選ぶ、という選択肢は玉妃の中にはなかった。それまでは女の子を食べてきたあたしにとって、自分が食われる側になるとは思ってもみなかった。それ以降、アフターピルを持ち歩くようになった。
慌てすぎてた。杉本にも飲ませてやれば良かったのかもしれない……
玉妃の射精もノットが出てる時はすごく長い。確実に妊娠させにかかってる、というのはわかるが、あたしが大人しくしてるタイプでないこともわかってるはずなのに……でも……
「もしもし?玉妃?あたし。今大丈夫?うん。だいぶ回復の方向に向かってる感じ。今日、仕事終わったら玉妃のとこに行ってもいい?」
『遅くなっちゃうけどいい?部屋で待っててくれても良いんだけど……』
「……うん、じゃ、待ってる……」
短い電話だ。玉妃が遅くなるなら、少しは杉本のところに寄れるだろう。
「大山さーん!!次の撮影入りますよ?」
「今、行きます」
スタジオでのCM撮影は、新しく組まされているΩくんとの新しいCMだ。
この子は特殊Ωではないから、抑制剤がよく効いてくれる子だから……杉本の二の舞になることはないだろう……いや、させてはいけない。
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