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第45話

僕がこっちの世界に戻ってきて、大山さんにも連絡がはいったのか、その日の面会ギリギリの時間に病室に飛び込んできた。 「あ、大山さん、その節はご迷惑をお掛けしました……?」 声をかけた途端に抱きつかれた。 「……ごめん……本当にごめん……でも、還って来てくれてよかった……全部あたしのせいだから……本当に……ごめん……」 いつもは強気な大山が泣いてることに驚きを隠せなかった。 「本当に大山さんのせいじゃないですよ……僕が薬を飲み忘れたのが原因です。それに、あの人たちは僕が完全なヒートを起こす前に行動に出たんです。 最初に囲まれた時には発情の匂いはしなかったんです。鳩尾に1発入れられて、気を失った後、目が覚めた時には全員からヒートの匂いがしました。だから、自分を責めないで下さい。Ωってだけで隙を狙ってたんですよ。だから、大山さんのせいでは……」 「別々に仕事をしたことがまず、間違いだったし、今の話だとライオンの檻にうさぎを入れたようなもんじゃないか。あたしが守らなきゃいけなかったのに……」 「逆に情けないですね。男なのに、女性に守られるとか……」 あはは……と僕は情けなく笑うしかない。 「情けなくない……βの女性と比較しても、明らかにΩの被害者は多いんだ。」 「……僕……情けないことにこっちに戻ってこれたのは幼い少年のおかげなんです。単刀直入に伺いますが、僕はあれが原因で妊娠して堕胎してませんか?彼は僕のとことをママと呼びました。なにがあったとしても受け止めます。彼がお腹にいたら、お互いに死んでしまうから、その子はお腹から出ていくんだ、と言ってました。でも、また、僕のところに来たいって。 あんな暗い場所に残しては置けない。あの子にはなんの罪もないのに、本当に申し訳ないとこをしたと思ってます。僕は峰岸さんと『番』になって、彼を産むことになるようです。」 「……そっか……」 ――失恋したような気分になってる…… あたしだって玉妃に子供を望まれているじゃないか。他人のことは言えない。 「その子の言う通りだよ。医者に妊娠してるけど、今のままでは2人とも命を落とす、って言われたから、あたしは杉本の命を優先した。杉本のお母さんはすごく躊躇ってた。だから背中を押したのはあたし。ごめん…… でもね、あたしも大学時代の親友がαでね、きっかけはお持ち帰りされたんだけど、子供を産めって言われてんの。どうせ産むなら同級生にしようよ?まずは体力を戻さないのダメだね」 「峰岸さんと同じことを言う〜」 「あたしが言うのもなんだけとさ、峰岸さんには頭が上がらないし、α恐怖症を発動してたのに、唯一近づくことが出来たのが峰岸さんだけなんだよ?これが『運命』じゃなかったらなんなんだろうね……」 そう言ってから 「あんたとはまだまだ仕事をしたいと思ってる。しばらくはリモートでもいいと思う。戻ってきたら謝りたかっただけだから。お互い母親になったら、子供服のCM作ろうよ」 ――あたしの中で何かが吹っ切れた気がする。 「 あたしのパートナーになると思う人はデザイナーだから、その辺のわがまま聞いてくれるから、専属にしてくれるかも。これまではあたしが遠慮してたけど、峰岸さんとのCMも褒めてくれたし。あたしたちいいペアだよね。」 この一件で大山まで傷つけていたのだろう… 子供より仕事を選んでいた生き方に、どんな心境の変化があったのだろう? 「大山さんをそんな気持ちに変化させるなんて大山さんのパートナーってどんな方ですか?」 純粋な疑問だった。 「αだよ。大学で出逢って、半月で飲み会でお持ち帰りされて、気づいたら食われてて、その時から自分の子供を産むのはあたしだ、って言い続けてる変わってるヤツ……かな。一応、ホワイトクローバー・コーポレーションのCEOしてるよ。」 「……ホワイトクローバーのCEOって……白石玉妃さん……?すごい美人の女性ですよね?」 「美人かどうかはあたしからは言えないけど、バリバリのキャリアウーマンだね。学生時代から口説かれ続けてるから、そろそろ年貢の納め時かな?とは思ってるよ……」 少し憂いた表情をしてから 「時間だから今日は帰るね。きちんと話せて嬉しかったよ。また、来るね」 そう言って手を振って病室を後にした。

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