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第48話
受信の時に、いつも飲んでた薬の名前を精神科医に伝えて処方してもらえるようにたのむと、僕が通ってた病院の名前を聞かれた。医師に連絡を取ってくれたようで、病室に駆け込むように現れた時は心底ビックリした。
「しばらく来院がなかったから番になったか妊娠したか……と思ってたら……」
「……妊娠はしましたよ。でも、今はもういません。その子が僕を助けてくれたんです。だから、次は産んであげようと思ってますが、まだ、僕は妊娠できる身体ではないので……」
医師もキョトンとしていた。皆揃って(怒)
「……君からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。君をそう思わせるほど、その子はよっぽどいい子だったんだね。」
「ええ。すごく。その時の言葉ははっきり覚えてますよ『ボクがいたら、ママもボクもダメになっちゃうんだって。死んじゃうんだって。だから、ボクはママの命を助けたいし、それを望んでる人がいるんだ。だから、ママのお腹から出ていくんだけどね。また、ママのところに戻りたいけど……ねぇ、またママに逢えるかな?』僕は彼に『また、逢えるよ』と言いました。それが僕のことだと気付かずに……だから、僕は僕の言葉に責任を持たなくてはいけないんです。僕は嘘が嫌いなんです。嘘をつく人は信用出来ません。だから、子供には絶対に嘘はつきたくないんです」
嶺岸にも聞かせたい言葉だった。あの時、嘘をつかなければ、雰囲気に飲まれて『番』になってたかもしれない。
いや、それはないかな。あの時の僕は完全に『拗らせ男子』だったから。あの時までは本当に何も知らなかったんだ。αは怖くて気持ち悪い存在……処女のまま一生を生きてく覚悟も出来てた。なのに、急に嵐のような日々に流されて、嶺岸に抱かれ、集団強姦 されてα嫌いに拍車がかかった。
嶺岸は僕の入院を知ってから、時間のある時は顔を出してくれている。仕事柄、忙しいのはわかっているし、それでも時間を作るために仕事を前倒しでできる範囲でやってくれていることも。だから、毎日は来れなくても、一日おきくらいには顔を出してくれる。
「……雅の傍に居ると、疲れが飛んでく……」
と、ことある事に抱きついては来るが……
欲望だけじゃない。慈しみを感じているのも事実だ。たぶん、まだ、αは怖いけど、最初にまともな言葉を発したのが『たつき』の名前だったことから、結論は出てるじゃないか……
未だに嶺岸以外のαは怖い。
兄の娘にまで拒否反応を示してしまって、楽しみのだった性別判断を知らせてしまったことは申し訳ないが、まだ、完全ではない。兄の遺伝子に反応しただけかもしれない。
もう少ししたら、父も来れるようになるだろうか……?今回の件で、僕がΩだから、という部分では心配されたり、父の本音を聞くことが出来た。だからといって父のしてきたことは母に対する裏切りもある。
抑制剤を飲めば、多少は大丈夫だろう。
実際、父との交流は少なかったと言ってもいい。仕事人間の上に浮気を繰り返していたら、家にいる時間は少ない。兄のところに孫が生まれて、少し落ち着いたようだが、僕のことを、そんなに心配するほど……?というのが正直な気持ちでもあった。
それだけに、父と嶺岸がバッティングした時が少し楽しみだった。
さすがにΩの匂いをつけたままここに来る訳もなく、父のαの匂いに僕が耐えられるかどうかが1番の問題点だ。
兄ですら無理だったんだ。発情期の時だけは怖い存在だったが、普段は普通の兄弟だった。
発情期でなければ、父も大丈夫だろうか……?
そんなことはも母には言えず……ただ、母の前でバカことを言うようなことは無いと信じたい。αとΩだと言っても、ただの父子だ。
純粋に僕を心配してくれる、それだけのことだと……
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