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第50話
退院の日が決まった。変わらずα恐怖症は以前よりは良くなったものの、完全に完治した訳では無いから、通常のΩ外来に通いながら、メンタルクリニックにも通うことが条件だった。
退院後、実家に帰るか、嶺岸の家に行くのか、という部分で、少し揉めたが、一人暮らしの部屋を引き払うことだけは確実のようだ。
結局のところ、嶺岸の家に行くことになり、引越しの手配も全て嶺岸がしてくれた。元々家具付きの部屋だったので、持ち出すものはそれほど多くはなかった。嶺岸の空き部屋に運ばれたのは、服と僅かな小物だけだった。
父が来た時にも、僅かな震えが出てしまったことが、嶺岸の家に行く決め手となってしまったが、母もたまに顔を出す、という条件の元だった。母も顔を出す、と言っても、入院時の癖なのか、最初のうちはほぼ毎日通ってきていた。
「咲羽 の面倒は良いのかよ……?」
「だって、眞里さん、滅多に連れてきてくれないんだもの。自分の実家に預けちゃって……」
昼食、夕食を作って帰ったり、病院の付き添いを主にしてくれてるが、嶺岸のいない日が条件だ。嶺岸も付き添いたがるし、彼も食べさせたがりだからだ。もう少し体調が戻ったら、少しずつ僕も料理を覚えなきゃならない。それを母に伝えると
「離乳食なんて作り置きができるから、私にも手伝わせてよ」
などと言い出す始末だ。娘親の発言だな、と思いつつ、産むのは僕だから、娘みたいなものか……と妙に納得してしまう。
堕胎手術をして半年以上が経っている。ちゃんと目覚めてから発情期が2回。子供を作ることはともかく、セックスはしていいのか、医師と2人きりにしてもらい聞いてみる。
「キミが望むなら大丈夫なはずだよ。もう、だいぶ経つからね。でも、子供はまだ早いかな。男性の堕胎手術だからね。1年は置いた方が良いかな。番の相手が我慢できないの?」
「……いえ、退院してから同居を始めたんですが、一緒に寝てるのになんだか申し訳なくて……僕の気持ちの問題なんです……」
「次の発情期の時に薬を飲まずに誘ってみたら?今日明日に急に誘っても相手がびっくりじゃうんじゃない?」
――驚くよりも、ノリノリになりそうなタイプだけど……
とは口に出せずにいたが……
「いえ、まだ、妊娠するべきでないと仰ったのは先生で……」
「そうだったね、出来ない程度に頑張って」
――頑張れって……何を頑張るんだ?
考えてると頭が痛くなりそうなので、そこで考えるのをやめることにした。
帰宅したら話してみようかな……さすがに今日付き添ってくれている母さんにはとてもじゃないが言えないけど……
僕の孫が欲しい母さんも、ある意味ノリノリにはなりそうだが、まだ早い、とも言われているから下手に期待はさせたくない。
まず、堕胎してる時点で、子供が出来る身体なのかどうかも分からないのだから。
「何話してたの?」
「大した話じゃないよ。今後の薬のことについて、ちょっと専門的に話していただけ……」
「まだ、飲むの?さっさと嶺岸さんと番になって、そんな薬は辞めちゃえばいいのに……」
「……母さん、こんな聞き方も変だけど、番になる時ってどうなのか知ってる?」
「首の後ろを噛めばいいんでしょ?さっさと噛んでもらっちゃいなさいよ」
知らないとはいえ、そんな大きな声で言わないで……本当に恥ずかしい……
「あのさ、もう少し静かに話してくれる?大きな声じゃ言えないけど、αとΩの番の契約はΩの発情期のエッチの時で、射精の時に噛まないと意味が無いんだ。母さんだって知ってるだろ?αのノットが出た状態……あの時じゃないとダメなんだよ……それに、まだ、妊娠できないし……番になると出来やすくなるから……」
「……あぁ〜……そうなの……あれね、やけに長いやつ……」
遠くを見る目でなんの感慨もなく告げた。母も経験者のはずだから、その辺は理解したらしい。
ただ、母はβだから、あれだけの長さの間にオーガズムが通り過ぎてしまう、と笑った。
βの女性が妊娠できるの月に2〜3日しかない。欲求とその日が重なることは多いとは言えないが、その点、Ωはハッキリしているとも言えるだろう。が、100%妊娠するとは限らない。
「それにね、僕の場合は抑制剤はずっと飲まなきゃダメなんだよ。番だけに匂いが分かるなんて話じゃないんだ。番になっても匂いが漏れるんだよ。普通のΩと違うのはそういうとこなの」
発情してない時には確かにセックスは出来ないだろう、と思っていたが、β同士の同性愛カップルもおしりを使うらしい、と聞いたが……
――いや、あんなでかいのはいらねぇ!!
真っ先に否定する
――きちんと話せるだろうか……?
浅くため息をついてしまったが、
そんな不安と戦いながら家路についた。
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