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第51話

樹が仕事から帰ってきてから母の作った夕飯を温めて、ダイニングテーブルに並べた。食べながら母の話をすると爆笑された。 「そりゃ、番はβには関係ない話だろうけど親に話すのは気まずいね」 「気まずい、なんてもんじゃないよ。待合でそれなりに人がいるのにさ……母さんの場合、あれでいてかなりの天然なとこあるからね……」 「……あれでいて……って、雅のお義母さん、かなりどころか、普通に天然だろ」 「……傍から見てもそうだったのか……」 「まぁ、いい意味で、可愛らしいお義母さんでいいじゃないか。」 「しかも料理を教えろって言ったら、離乳食は自分が作るみたいな言い方までされてさ……」 「離乳食とは……雅も気が早いね」 クスクスと樹が笑う。普段は樹が料理をしてくれていることに申し訳ない、というのもあったがそっちで解釈されるとは…… 「僕は在宅ワークさせてもらってるし、家にいることが多いから……」 「だからって1人で買い物とかダメだからね?そこまでは回復してない上での退院なんたから。ドクターストップが解除されるまでは少なくとも買い物もダメだし、雅が1人で歩くなんて不安で仕方ない……」 過保護が加速化してる…… 「……こういうのもなんだけど、僕は樹が思ってるほどモテないよ?」 「たまにスタジオで耳にしてたから、雅に興味を持った、って言ったら?」 「『運命の番』を否定する」 樹は驚いた顔をして 「そこまで言う?! でも、雅の話が出てたのは本当。ツヴァイプロモーションに可愛らしい仕事の出来るΩの男がいるけど、相方の女性のガードが固くて引き抜きたくても手が出せないって。たまにカサブランカの香りのフェロモンの匂いがして、時々ヤバい、いつか食ってみたいな、ってどこのスタジオでも話してたよ?雅の会社で男女の比率的にも男Ωがβの女性を連れてるのは限られてくるからね。狙われてたのも知ってはいたんだ。だからどんな人か、っていうのも気になってたけど、会った瞬間に『唯一無二を見つけた』って思った。ビビッってくるっていうのは本当なんだな、って。好きな気持ちはどんどん膨らんでくし……オレは別に雅に子供を期待してた訳じゃないんだけど、『新しいパパ』にはノックアウトされたね。」 とくすくす笑う。堕胎された子供がまた、戻ってきてくれるなら……だが。 男性体での堕胎手術は女性体と比較してだが、妊娠の確率を下げる。けれど、Ωである限り、男としての機能がない。βやΩ女性と同じに子供を産む存在だ。 あの暗闇からあの子が出れるようにはしてあげたい。 確かにうちの会社で男女でペアを組むことは多いが、女性がβのペアで外回りをしてるのは僕らともう2組くらいだが、Ω女性の大半は内勤だ。ほかの2組は確かに女の子みたいなΩ男性だから、可愛らしい、は当てはまるが…… 「その話、僕じゃなくて違う人じゃないのかな?僕はうちの会社の企画のΩの中でも可愛い、という部類じゃないし。他にも2組いるけど、僕から見ても可愛い子達だよ?」 「でも、その子たちは雅ほどの仕事はしてないんだよ。オレも何度かその子たちは見てるけどβの相方の陰に隠れて、雅みたいに動き回らないんだ。オドオドしてるだけで企画はしっかりしてるかもしれないけど、現場では目立つことは無いんだ。そんな子を引き抜きたいと思う?少なくともオレは思わないね。」 αの多い現場は確かにΩにとっては脅威かもしれないけど、出来上がった作品はどれも悪くない。ただ隠れてるだけでは成長はしない。少し教育し直さないといけないな、と思う。 確かに、大山と今現場に出てるのはそのうちの一人だが、企画を出すのはいいが現場では『使えない』とは言っていた。 今、僕もいくつかのクライアントからの依頼に対しての企画を作成してメールで送付する、という作業をしている。それに肉をつけたり、そのままだったり、という形で仕事が進行している。現場に行けないのは少し残念だが、恐怖症が緩和されてない今、それはさすがに厳しい。 そんな中、社内会議を僕はリモートだったけれど、そこに飛び込んできた話題に驚くことになった。

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