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第52話
「……杉本くんや大山さんにとっては辛い話になるだろうけど、キミらを襲った連中全員、警察で事情聴取中で彼らが所属していた事務所も倒産したよ」
――キミら?聞き間違いか?
年齢はそれぞれだったから、家庭がある人もいただろう。それにあの5人以外には罪はないのに、会社自体が倒産したとは……
「杉本くんのパートナーと大山さんのパートナーは敵に回さない方が利口だね。2人とも災難だったね。同じ会社の人間に襲われるなんて、私の至らなさを後悔するよ」
――大山さんが襲われた?!
「……口封じのためだったんだろうけど、逆効果だったね。本当に気分が悪い。集団で襲ってきやがって。あたしの場合は翌日に玉妃と警察に証拠を突き出したからね。」
ふん、と鼻を鳴らして大山が言い放つ。が、女性が複数に乱暴された……というのは、かなりショックだっただろう。僕だってそれで心を壊した……というのに、彼女はすごい怒ってはいたが、犯人を罰せられればそれで良い、といった感じだった。出来ることなら、社会的抹殺出来れば尚良し、といった感じだ。
「大山さん、あの……だ、大丈夫なの?」
オロオロする僕を横目に
「別にあんたみたいに生娘って訳じゃないし、そりゃ集団は卑怯だと思うけどね。ダメージはあったけど直ぐに玉妃に癒してもらったし」
ふん、と鼻を鳴らして、もう平気、と言う。
「今後はこのようなことがないように、気をつけていこうと思います。これだけ大事 になってるから、業界としても下手な真似はしないだろうと信じてる。Ωの皆さんは抑制剤の飲み忘れはないように。βの皆さんも被害を受けたら即警察に駆け込むように。では、企画会議を始めようと思う……」
色んな企画書を比べて意見を出し合って、一つの作品を造り上げる……その作業が好きだ。
「杉本くんの企画書は完璧すぎて、口を挟む余地はないね。リモートでもいい仕事をしてくれる。これからも期待してるよ」
社長の言葉が胸に染みる。社長もαだが、恐怖症の発症はしない。リモート、というのもあるのか、社長の愛妻ぶりを知ってるからなのか……?けれど、社長に子供はいない。奥さんの姿もたことも無い。どんな奥さんなのか、今になって気になってくる。
リモート会議も終わり、一息つこうとキッチンに向かいコーヒーメーカーをセットする。そろそろ樹も帰ってくる頃だ。
――って、これで料理が出来たら完璧に奥さんじゃん!!
今更ながらに赤面してしまう。恥ずかしすぎて蹲 っていると、ただいま、という声が聞こえてくる。顔の火照りを覚ましたくて、顔を洗おうとキッチンを出ようとしたところでばったり樹と出くわした。
「どうした?顔が赤いけど熱?」
「……ち……違っっっ……」
おでこをくっつけられるが、熱があるわけじゃないから、不思議そうな表情をする。
「……なんか、コーヒー淹れてたら、そろそろ帰ってくる頃かな?と思って……これで夕飯作って待ってたら……と思ったら……」
イケメンの樹の表情が少しだけだらしない顔になる。全くもって台無しだ。
「なに?その可愛い発想。うわぁ、すげぇ抱きたくなってきた……」
そう言って片手で顔を覆う。
「……その事なんだけど……お医者さんからはもう、大丈夫だって……」
「は?それ、まさかストレートに聞いたの?」
「…………うん……」
「めちゃくちゃ嬉しいんだけど。でも、まだ噛めないのかぁ……大山さんと一緒に、だもんなぁ……まだ、オレも怖いし、今日はヒートしてないからゴムするかな……」
意外な言葉にちょっとムッとした。
「持ってんの?」
「買ってきたの。その時がいつ来てもいいように。でも、まだ、雅に負担はかけられないから、避妊は必要だろ?」
ますます顔が紅潮する。
「……すぐ抱いてもいい?」
「……ん……でも、その前にシャワー……」
はっきり返事をするのが恥ずかしい。
「いらない。後で2人で入ろ。今はじっくり雅を感じたい……味わいたい……」
僕はこの男にだけは、本当に押しに弱いことを改めて実感した。
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