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第58話(樹目線)

「ねぇ、あんたんとこの子猫ちゃん、早く番にしちゃってよ。うちんとこの那恵は気紛れな(ひね)くれネコだから、いつ気が変わるかわかんないから、早く妊娠させたいんだけど?」 白石玉妃はその名に恥じないくらいの女王っぷりだ。メンズブランドのモデル撮影に来ているのだが、社長が自ら出てくることも少なくはないが、あまり話しかけてくるようなタイプではなかった。というのも、女にしか興味が無い。 「そう言われても、ドクターストップかかってる状態なので、即答は出来ませんよ……オレだって気にしてはいるんですよ。早く噛みたいのはやまやまなんですけどね、白石社長……」 苦笑いしか出来ない。あと数ヶ月すれば、雅の出産期と大山の出産期を考えると作ってもいい頃だとは思うけれど…… 他所様の情事に口を挟む気はないし、雅は4〜5ヶ月で出産をすることを考えると、その数ヶ月前には妊娠しても問題はないだろうが、大山は現場が好きだから、妊婦になってもバリバリ出産直前前まで仕事をしそうな気がする。 別に2人揃って出産日まで一緒にする気はないようだが、同じ月生まれの同級生にはしたいらしい。 「まぁ、話は聞いたけどね。うちの那恵も襲われたし。その時も目障りなものはクスコで広げて全部だしてやったわ。しかも受精卵まで見つかったって知った時はお互いにショックよ。警察に聞いた話だけどね?私の那恵に知らない男の子供なんて冗談じゃないし、私だって大学の頃からずっと口説き続けて、やっと頷いてもらったんだから。そこに嶺岸くんが絡んでることも知ってる。そこはすごい感謝してるんだわ。那恵は抱くのも抱かれるのも好きな子だから、精神的に縛れるタイプでもないのよ。」 「それを許容してきた社長は器がでかいですね。オレは……他のヤツと肌を合わせるなんて考えただけで……でも、現実になっちゃいましたけど、この先は守る……そう誓ってます。」 「キミのとこの子猫ちゃんは潔癖だからね……うちのところはある意味節操なし。女を抱くことも好きだし、や抱かれるのも好き。この間なんて、私に隠れてキミのとこの子猫ちゃんにそっくりなΩと男の子の風俗にまで手を出して……って、これ知ってんの秘密ね。ただ、手を出したのが本物のΩなら良かったんだけど、運悪くαだったのよ…… たまにいるじゃない?αでも遊びでΩの気持ちを知ってみようって、オメガのフリして遊んでるα。そいつの場合、兄弟多くて、そこの店を任されてた子らしいんだけど、βの那恵がどんなことするのか、気になったらしくてね。で、那恵のプレイにハマったから譲れ、ってどこで調べたんだか、連絡が来たわ。私との時は那恵は突っ込むまではしないから、悦がる那恵しか知らないけど、そいつもαなら、プレイとしては抱かれてるんだろうけど、子供を産めるのはΩかβの女だからね、那恵がΩだったら先に噛んでおいたのに……とんでもない変態と関わっちゃったの。全く……困った子だわ……」 要するに、白石玉妃は共同戦線を張りたいわけだ。だが、相手がαなら、まだ、こちらを巻き込んでもらっては困る。オレが噛んでも、発情期の匂いをセーブできるかどうか、薬を頼るべきか、それすらもわからないような特殊Ωの雅を巻き込むわけにはいかない。 はぐれΩが集まるようなデリヘルでの慰め合いなど必要も無い。 ――はぐれΩ……1度は誰かと番ったけれど、何らかの事情でその番のαから番の解除もされずに離れなければならなかったか、捨てられたかしたΩたちだ。番の解除をされたとしても、ヒートを抑えることが出来なくなってしまって苦しむ人達だ。抑制剤が効けばもっと違う仕事もできるだろうが、番って解除されても効きにくくなることもあるらしい。 雅はそんなことをしなくても、オレがいるし、万が一、オレに何かあったとしても、直ぐに番える人間が見つかるだろう。男のΩ嫌いのこの女王様が雅の匂いに発情したくらいだ。 密かに大山からは聞いていた。 『あの部屋に踏み込んだ時、あたしですら目眩がするほどの香りが充満しててβでも簡単に発情させられるし、うちのαの旧友にその足で会いに行ったら、寝かせてもらえなかったわ……それくらい嶺岸さん以外にも強烈に感じてる人は少なくないと思うの。あの子は危険と常に隣り合わせで生活してきて、今までよく無事でいられたと思う。しっかりしてるようで抜けてる子だから、嶺岸さんが管理してあげて?』 無理やり発情させたのは悪いとは思っているけれど、そうでもしないと軟禁できなくなってきてる気がした。 さてはて、この女王様の命令をどう聞いていいものか、考えなければならない。

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