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第59話(樹目線)
「Ωのいい匂いがすると思ったら……嶺岸 樹さんじゃないですか……貴方αじゃありませんでしたっけ?しかもさすが、極上品の匂いだ。」
割り込んで入ってきたのは、雅が少し背を伸ばしたような双子のように似た男だったが、そいつはΩではなく間違いなくαの男だ。
「うちの『番』はものではありませんので、その言い方はどうかと思いますけど?」
声まで似てる……骨格が同じなら声が似ることはよくある話だが……少し低めだ。
「白石社長、リカさんのことちゃんと考えてくれました?って聞きに来たんだけど……僕、嶺岸さんのまだ、番ってないΩさんのことも気になるなぁ……あっ、申し遅れました。僕は宮日賢祐 と申します」
みやび……宮日、名前の響さえ一緒なのか……
宮日といえば手広く事業をしているグループ会社でもある。
ニッコリと微笑む姿が少し憎たらしい。
「……社長、リカさんって?」
「那恵が悪さする時の名前。あんな粗雑な女でも、トラブル多いのよ。あっちこっちの女に手を出すから、修羅場なんて珍しくもないんだけど、男は初めてだから……」
なるほど。こちらにも責任はあると?
「事情があって今は番にはなっていませんが、『運命の番』なので、近々番になりますよ?」
「そんなに魅惑的なΩの匂いをつけて……?αなのに襲われかねませんよ?」
「オレがαだと言うのは有名ですし、番の匂いをつけていても襲われる心配なんてありませんよ?番も大切にしてますし。」
「リカさんの話を聞きに来たのに……僕、嶺岸さんの番にも興味が出てきちゃった。すごい強烈な男を誘う香りをなさってるんですね」
オレと白石社長とはコソコソと話している。
「……早く噛みたくなる気持ち、わかるだろ?こんなのに、自分の運命の人を渡すなんて考えたくもない、あんたもそう思わない?」
「そうですね……オレの『運命の番』は特に繊細ですしα恐怖症もまだ、克服していません」
「何コソコソ話してんの?どうせなら2人とも僕が引き取らせてもらって大事にするけど?」
「お生憎様。こっちのΩくんと、うちの嫁はバディを組んでてね、同時期に出産する予定も2人で立ててるの。それに合わせるのが私たちの力量にかかってるなんだけど、まだ、Ωくんが妊娠できる状態じゃないから、その時期を待ってるだけなの。2人の意見は貴方じゃないからどうぞ、お引き取り下さい。」
少し震えてる白石玉妃という女性を初めて見た気がする。それが何を意味しての震えなのかわからないが……相手の男は下卑た笑いを漏らしながらも軽い口調だ。
「イヤだなぁ……そんな邪険にしないでくださいよ〜。別に僕はあなた方のパートナーを売ろうなんて考えてませんし」
「生憎、ウチの番はオレ以外のαは受け付けないんでね。あんたでも無理だし、白石社長のパートナーも社長の子供を産む約束を自分からしてる。そんな横恋慕なことをしたって人の心は動かせませんよ?」
「……まぁ、言いたいことはわかります。だから、あなた方のパートナーさんと直接話がしたいんですよ。しかも嶺岸さんのところはヒート中……そんな最中でもαがダメとかなりますかね?まぁ、求められれば美味しくいただきますけど?そんな怖い顔しないでください。冗談も通じないんですか?参ったなぁ……」
――冗談に聞こえねぇんだよ……
「白石社長……はぐれΩのお姉さんは元気にしてますよ?社長と同じ美人だから、よく稼いでくれてます。」
――白石社長の弱みはそこか……
「お姉さんを人質にして、パートナーを横取りしようなんて卑怯ですね」
「なんとでも言ってください。それにうちの企業は白石家とは切れない縁もありまして、スポンサーをさせていただいてる企業も多々あります。どちらかのパートナーをいただけるなら僕はそれ以上、何も口出ししませんから」
卑怯の塊だな……金絡みなら、なおさら雅は関係ない。匂いだけだというのに変なのに巻き込んでしまった。もしも仕事ですれ違っただけでも相手は気付いてしまうだろう……
――『番』にだけなるのはダメだろうか……自分でヒートを起こさせたばかりだ。けれど、まだ、妊娠させるわけにはいかない。 リスクが高すぎる……
ジレンマの中、いかに雅を守るか、を考え続けていた。それは白石玉妃も同じようだった。
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