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第60話(樹目線)

「では、僕は別の仕事がありますので、これにて失礼します。一日でも早くここにいないお二人にお会い出来ることを楽しみにしてますよ」 ヒラヒラと手を振りながら去っていく背中を見ながら、最後まで気に触る言い方しか出来ないのか?と思うが、静かに立ち去るのを白石と見送る。塩を撒きたい気分だ。 「……もう、本当に最悪……那恵に会わせようものなら、どんな脅され方をするのか分からないから本当に怖いよ……私にはアイツに対しての弱みが多すぎるんだ……親の事業のスポンサーも宮日グループだし、姉をはぐれΩにしたのもあいつの兄貴だ。なのに、姉はいつまでもあいつの兄貴を忘れられない……次の番が絶対いるはずなのに……あんなとこにいたら、麻痺しちゃう……でも言うことを聞いてくれないし、何も出来ないあたしは無力なんだよ……」 女王様の悩みは思ったよりも深い。だからといって雅をみすみす渡す気もない だいたい『宮日』ってなんだよ……もう苗字からして雅は無理だ。みやびみやびになってしまう……ってそこじゃねぇ〜〜〜!! オレの頭もちょっとパニクってる。白石と大山がそんなことになってるとは露知らず…… しかし、なんで大山はΩ(と偽ったα)などと関係を持ったのだろう?風俗なんかに手を出さなくても、相手に困る人間じゃない。たぶん、最初に目にした光景とヒートの匂い……それが脳裏から離れないのでは無いだろうか……? いや、でもそれはすでに過去形の話だろう。 ただ、その時、自分のバディーを急に欲しくなってしまった……が、当の本人は生きてる人形のような状態で、そんなことは出来ない。風俗サイトを漁っていたら、たまたま目についたのが、あのそっくりさん、というわけだ。 「……白石社長、唐突な話で申し訳ないんですが、オレの番の顔みたことあります?」 「……ないわよ。そのうちに会わせる、って那恵から言われてるだけだし、あの賢祐も出来れば近づけたくないのよ……」 「……あのこれ見て頂けます?」 隠し撮りした柔らかな顔で笑う雅の写真を見せた。 「あの男、こんな純粋な笑顔出来んの?」 ――やっぱり…… 「これ、オレの番の相手であの男ではない写真です。杉本雅……あなたのパートナーのバディですよ……正真正銘のΩです。男のΩの匂いが嫌いな貴女が唯一、その匂いに負けた……特殊Ωです。オレの番……雅が集団強姦された現場に最初に踏み込んだのは大山さんです。たぶん、フラッシュバックしたんだと思います。あの男を最初に見た時は本気で驚きました。顔立ちだけは本当に似ていると オレが思うくらいです。多分疑似体験をして見たかったのでしょう…」 「……那恵はそんなフラッシュバックで彼に似たΩ男性を探してアレに引っかかったの……?馬鹿な女すぎて呆れるを通り越して笑えてくるわ……あは……あははは……」 乾いた笑いで自身のつらさを和らごうとする姿は悲しいほどに切ない表情だった。 「……あんなヤツの毒牙にかからないように大事にしなよ?キミのΩくん」 「……ええ。社長もご自分や大山さんを責めないでくださいね……事故みたいなものです。オレも何か対処法を考えてみます。」 『撮影入りまーす』の声がして、そこからはファッションショーバリの着替えと撮影を繰り返す。大半がスーツだったが、どのデザインもスタイリッシュなビジネススーツやパーティースーツなどもあった。 黒のスーツ、白のスーツと着ていくうちに、雅に着せて結婚式でもしたら、きっと綺麗だろうな……と少し表情が緩んでしまう。 「なんか、番さんの匂いも相まってか、いつもにも増してエロくないっすか?」 「今、すごく幸せですからね。幸せのお裾分けだとでも思ってください。」 「そこまで言い切られると、逆にムカツク〜」 とスタッフたちは笑っている。早く帰って雅を抱きしめたい……そのためには一発OKで仕事をこなしていかなければならない。 色んなポーズを決めて、早々に帰路についた。

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