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第62話(樹目線)

部屋に入ると、雅は寝室の隅っこでカタカタと震えていた。 「なにがあった?!」 「……ぼ……僕にそっくりな……αが……」 「会ったのか?!」 オレの大きな声に逆に怯えさせてしまう。 「……っっ……インターフォン越し……ムリ、ムリ!!……会えない……」 首をフルフルと振りながら、半泣き状態になっている。焦ってしまいすぎた。 「……ごめん、雅の心と躰が心配だったんだ。あの男の話はしようと思ってた……今日、スタジオで会ったんだ。Ωと偽って大山さんと一度関係を持ったらしくてね……あの男の名前は宮日賢祐……宮日グループの御曹司で、はぐれΩのデリヘルの管轄をしてるらしい。」 「……そんな人が……僕に……なんの用?」 「雅の……この匂いが服や髪についちゃってたのを嗅がれたんだ。名前は言ってない。雅はオレの番だし、オレ以外のαはダメだから、って断ったんだ。落ち着いたら抱かせて?話はそれからでもいいでしょ?」 今の雅に全てを話すのは無理だと判断した。怯えが増す一方になってしまう。 耳元で囁くと、雅のスイッチが入ったようだった。「……あ……あぁ……」と短い息を漏らしながら、躰が熱くなって、ぶわっと、優しい花の香りに包まれる。唾液をたっぷりと流し込むようにゆっくりとキスをしながら、唾液を飲ませる。まだ、ヒートを起こしかけの時間は呼吸困難を起こすからだ。 誰のでもいいわけではない。 だから、集団強姦された時に呼吸困難で命を落とさなかったことだけは、僅かな希望だった。 ゆっくりと抱き上げてベッドへ下ろし、ひたすらキスを繰り返す。唾液を絡ませ舌を絡ませひたすら落ち着かせる為のキスと、気持ちを高めるためのキスをしながらシャツのボタンを外していく。腰の下に手を入れても気付く気配もなく下着ごとスウェットを下ろしてもひたすらキスに夢中になっている。もうすでに芯を持ち始めているそこも、少しずつ濡れてきている。恐怖を拭うために徹底的に愛撫をしてから抱こうと決めた。バンザイをさせて途中でシャツを止めておく。手を拘束するだけでも、快感は逃がせない。たっぷりと時間をかけてその心を解いていこうと思う。 宮日グループだってこの国のトップ企業ではない。色んなジャンルに手を出しているけれど、赤字を出してる会社もある。そこの負債を相殺して、税金対策をしている無駄会社だ。 オレだって一人っ子では無い。三人兄弟の末っ子だ。兄たちは親の会社に勤めている。総資産でいえばうちの方が上だ。潰しにかかることも出来るだろうが、そこまでする必要はないと今は判断している。 白石社長の会社だって、特にスポンサーがいる訳では無い。彼女は彼女で成功者だ。姉を身請けしたがっているが、姉の方が断っているらしい。それがどれほど妹を傷つけようとも…… 運命の番を待っているのか、子供の父親のことが諦めきれないのかはわからない。が、名家のご令嬢が売春婦みたいな真似をしてるのはしっくりこない。彼女も自分と同じ『唯一無二』を見つけてしまったのか……彼女の元彼……宮日の相手はすでに既婚者だというのに…… 宮日の兄弟で結婚してないのは、今回接触してきた賢祐だけだ。雅の怯え方からして、ヤツが本当はΩだとは考えにくい。ただの人見知りでは無いのだ。本能が感じ取るものなのであれば間違いなく‪α‬であることは間違いないだろう。 「……もう、辛い思いはしなくていいんだよ?」 背を撫でながら、唇は触れたまま雅を落ち着かせる。少し表情が和らいだ。 「……樹さえ……いてくれたら、それでいい……あの子を暗闇から救い出さなきゃ……」 魂でだけしか接触してない我が子のために、雅も焦ってはいるようだ。オレとしては、番契約さえ結んでしまえば安心でもあるし、もう少しイチャついていたい気持ちもあるが、半年間、さ迷ったその暗闇は相当な恐怖も伴っていたのだろう……救い出したい、というのはそんな気持ちから来ているのだろうと思う。 あくまでも、それはオレの主観でしかない。 実際にその場所にいたのは雅だけなのだから。

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