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第63話(樹目線)
――妖艶に乱れる……というのはこういうことを言うのだろうか……?
雅の香りにつられて自分もヒート状態に入ってしまった。
完全にお互いのヒートの匂いに酔っているようだった。いつもより大胆に迫ってくる雅をみてると、こっちの頭がイカれてしまいそうだ。
まだ、流されてしまうことは出来ないというのに無意識のうちに『番』にしてしまいそうで怖いくらいだ。番にはなりたい。でも妊娠の確率が上がる。まだ、回復しきっていない雅を妊娠させるわけにはいかない。現状だってリスクがないわけじゃない。
こっちもヒートを起こしてる、ということは簡単なセックスでは終わらない。ノットが出た状態で長い射精を受けるのは雅だ。個体差はあれど、Ωなので躰が弱い人種でもある。Ω故に、αとの真逆の体質なのだ。精神も躰も弱く脆いからこそ、αが守らなければならない。圧倒的に少ないΩ、その次にα、人類の大半はβだ。
自分は『唯一無二』が見つからなければ、子孫は残さない、物心ついた頃からそう思っていた。母の道楽で入った芸能界で、子役の頃から上手く立ち回れたおかげで今もその場所にいる……いたからこそ、雅に出逢えた。この愛おしい目の前の人を不自由なく愛していきたいと思えた。愛しくて堪らない。
「ん……ふぅ……んっっ……」
いつもなら、脱力している長い愛撫の後、何故か雅はオレを咥えこんで懸命に舐めまわしている。少しでも反応すれば嬉しそうに微笑む……
そんな姿にクラクラしそうな自分を抑え込み、自制しようと思うものの……
「……ね?……指で……中をグリグリして?」
とお強請りまでしてくる。本当に噛んでしまいそうだ。感じながら腰を揺らしつつも、まだ、挿入させてはもらえなさそうだ。けれど挿入 れてしまったら、理性と本能の戦いが始まる。
同じものがついてるのに、生殖機能を持たないが、イッたりするのは目に見える。よく、女性は演技をする、と言うが男から見て締まってくるらしいが、本当に満足したのか、はわからない。その点においては目に見えてイッてるのが見えるのは、こちらも充足感を得られる。長引けば、イキッぱなしの状態で、何も出なくなるほどに愛してしまうこともあるが、もう、そんな時には雅の理性もトンでしまっていているからわかりやすい。
今現在に至っては、完全に理性など残していないだろう。雅自身は消極的で特に性に関しては臆病な部分が見られる。恋をしたことがなかったことからしても、他人にそういう感情を持つことがなかった。自分から強請るなんてことは初めてだ。だからこそ理性のタガが外れてるのだと思う。溢れ出し滴る愛液を会陰あたりで舐めとると口が絞まり強く吸われる。初めてしてもらっているのに持たなくなりそうだ。
この匂いがどれほど危険だったかを改めて知った。けれど、誰にも渡さないし、それを雅も望んでいない。互いの意見は一致しているというのに、なぜ横槍を入れてくる輩がが現れるのか……特殊Ωの所為なのだろうがαという蛾が引き寄せられる蜜のようなものなのだろう。
オレだって特別は雅だけだが、恋をしたことはもちろんある。ただ、唯一無二ではないこともわかった上で、中学までは付き合ったこともあったが、高校生になると勝手は変わる。相手に求めるものが増える分、面倒な恋愛は避けてきた。中学生までなら肉体関係を求められても断りやすいからだ。
ここまで心惹かれるのは雅だけ……抱きたいのも、一生一緒にいたいのも雅だけ……宝物はまだ増えそうだが、一番は雅だ。
中学生になってすぐの夏休み……
あの時だけ……あの一回だけは避けられなかった。たぶん、雅には見抜かれている。『嘘つきは嫌いだ』と遠回しにオレを責めている
原因は従姉のΩにあった。何を思ったのか、発情期に長兄に会いにはウチに来たのだ。兄は部活の合宿に参加していて、一週間は家を空けている。その下の兄もバイトで家にいない。両親も仕事で家を空けていた。いたのはオレ1人。
たまたまのオフ日だった。
『我慢出来ない』と押し倒され、ズボンを脱がされ、いきなり挿入したのだ。少しヒートにあてられてた所為もあり、半勃ちになっていたものを完全に固くしてしまった。
『こんなのやだよ!!』というオレを無視して腰を振り続け、オレをイカせた。完全にヒート状態ではなかったから、ノットも出なかったし、妊娠もさせてなかったが、その後その従姉とは一度も会っていない。オレが避けていた。長兄は何度か関係を持っていたようだが、結局は別々の相手を選んで結婚をしている。
こんな粗末な話を雅にはしたくなかったし、経験のカウントにもしたくなかったんだ。
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