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第68話

紅潮した顔はお互い様だが、フー、フー、と獣のような息を吐く樹は、普段の樹からは想像できないほどの野性味がある。爽やかなエロを売りにしている『芸能人の嶺岸 樹』ではない。 「悪いな、見上げてるのも悪くないが、そろそろオレも雅を本気で啼かせたい……」 その言葉にゾクゾクッとしたものが背筋を駆け上がる。確かに僕が乗っかってから数時間が経過している。僕の体力もそろそろ限界に近かった。だから、頬を両手で挟んでキスをしながらもたれようとした手を取られて、対面座位から繋がったまま押し倒された。 1回のセックスに3時間も4時間もかけて、それを数回戦するのだから、嶺岸の体力も並ではない。いつか腹上死してしまうのではないか、と思う。でも、気持ちイイ…… 「……樹……奥……突いて……?」 今度こそ頬に手を添えて自分からキスをする。 ゆっくりと腰が動き出し、その速度を増していく。呼吸が段々とついて行かなくなる。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やぁぁぁぁぁぁ!!」 頭が真っ白になる。それまで与えられていた快感が直接的なものなる。主導権を初めてとっていたけれど、それが逆転した途端の攻め立て方が激しすぎる。喘ぎ、よりも悲鳴に近い声しか喉からつき上がってこない。ギリギリまで腰を引かれても、ノットが引っかかって完全に抜けることはない。αがΩを確実に妊娠させるためにそのように出来ているらしい。βにとっては冷めてしまう長い射精も、Ωにとっては、その瞬間まで……その飛沫ですらも感じてしまうし、長いエクスタシーを得ることが出来る……が、番になってしまうと『確実に妊娠させる』確率が格段に上がってしまう。 ヒートを抑えるためのセックスなのか、妊娠させるためのセックスになるか…… ――いったい僕は何人の子供を産むことになるのだろう……? 嶺岸のしつこさで、ヒートの度に妊娠してたら大家族になってしまいそうだ。ただ、僕の身体がそこまでもつかどうか…… 男Ωの妊娠出産は女性Ωよりも致死率が高い。人数を産めば産むほど、余命が削られていく。下手をすれば最初の出産で命を落とすこともないわけではない。男女問わず新しい命を産み出すことは命懸けなのだ。けれど子供たちがある程度まで成長してからなら惜しくはないかもしれないが、遺された嶺岸や子供たちには負担をかけてしまうだろう。 産んではいけない、と言われても発情期はくるし、薬の効きは以前のものよりは良くはなっているが、完全に抑えることは出来ない。他のαはダメなのに……怖いのに、嶺岸には発情してしまう。抱かれていると安心感が広がる。 ――さっきの恐怖感はどこに行ってしまったのだろう……? そう思えるほどには、嶺岸だけが僕を癒してくれる……安心して身を預けられる。抑制剤を飲んでる間はたぶん妊娠は避けられるだろうが、番になって飲むのを辞めたら、確実に妊娠するだろう。産むことを止めるには抑制剤を飲みながら発情期を過ごすしかない。 子供を好きだと思ったことは1度もない。欲しいと思ったこともない。彼に出会うまでは…… 自分の至り知らないところで、僕の命と引き換えに消えてしまった新しい命…… 僕があんな状態にならなくても、たぶん産むことはなかっただろう。 けれど出会ってしまった……あの幼い男の子が『ママ』のために産まれることを諦めたこと、また、僕の元に戻ってくる、と言ったこと……その父親が嶺岸であるということ…… 僕には一生縁のないと思っていた子供を作るための行為を教えこまれ、今では嶺岸限定でその行為に溺れている。他のαに興味を持ったこともあったが、他のαをいっぺんに知ってしまうことになり、そのヒートの混ざりあった匂いに好きな香りはなかった。 嶺岸と交合(まぐわ)う時の香りが……互いのヒートの時の香りが混ざりあった時の甘いフルーツのような香りが最高潮に僕を昂らせる。 もう少し待っていて…… 必ずキミを産んであげるから……

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