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第74話

事務所に行くと、杉本がいない。 「杉本は?」 「応接間で打ち合わせをしています。」 「相手は?」 「宮日グループの次男の宮日修二だけど……?」 「αのとこになんでΩの杉本を一人で行かせた!!あたしも会議室行ってくる」 走るが会議室の鍵は施錠されたままだ。 ドンドン!!とドアを叩くと中から宮日修二がでてきた。甘い匂いが広がっている。 「あたしは杉本とバディを組んでるものです。杉本は……?」 「ちょっと挨拶のキスをしたら倒れちゃって……」 「すみません、打ち合わせはここから先はあたしが引き継がせていただぎす!!」 窓を開けて換気をする。 「私としては、そこのΩくんが弟にそっくりでね、びっくりしたけど、まさかの特殊Ωがこんなところにいたのかと。是非、このまま話を進めて彼を娶りたいんですが……」 「彼には『運命の番』がすでに存在しています。それはご遠慮願います。で、打ち合わせについてはあたしがお受けします。もちろん話は2人で練っていきますので、連絡は密に取らせて頂きます。で、ご依頼の内容というのは……」 宮日修二は宮日グループの1会社を任されてる次男坊だ。そこの商品のCMの依頼だった。 「……大体の内容はわかりました。仰られた部分を具体化した際にはまた、お目通しをいただければと思います。期限は2ヶ月後、ですね。わかりました。今日はこの後にも来客予定ですので、また、改めてご連絡をさせて頂こうと思います。ありがとうございました。」 と頭を下げる。早く、杉本と、この男を引き離さなければ……という気持ちばかりが先走っていた。 彼が去った後、会議室で倒れている杉本に近づくと、発情(ヒート)状態に入っている。抑制剤を強くしたおかげでそれほど強い匂いではないが、これはまずい、と思い玉妃に連絡をする。 「……ヤバイのに目をつけられたわね……とりあえず、嶺岸に連絡をとってそっちに向かうわ。」 2人が現れる時間がもどかしい。結局、あたしは玉妃に頼ることだらけなのだ。けれど、玉妃はもう、他人じゃない。私は大山から白石に姓は変わっている。仕事の都合上、大山を名乗ってるだけだ。玉妃は女だが、男勝りな部分をもちあわせている。それにどれだけ救われてきたか、今になってわかる気がした。 今だって、本当は自分が守らなきゃならない杉本のことを玉妃に託している。玉妃との事が決まってから、あたしは弱くなった気がする。 いや、違う。元々弱かったんだ。それを陰で支えてくれていたのが玉妃だったんだ。 どんな勝手な行動をしても、玉妃はひたすらあたしを待ち続けてくれていた。αがβに、というのも不思議な話だったが、杉本の家もそうだという。あたしも杉本のような特殊Ωを産んでしまう可能性があるんだろうか? でも、杉本がいてくれれば知識はある。なんとかなるだろう。4人のバランスが崩れてしまってはいけない……無意識にそう思ってしまったから玉妃を頼るしかなかったのだろう。 あたしは嶺岸の連絡先を知らない。全部、杉本任せだったからだ。この状態を見て嶺岸が何を思うのだろう…… 玉妃の手前、怒ることはないと思うが、早く来て欲しい……来ないで欲しい……気持ちが混乱している。こんなことなかったのに、なんでこんなに気持ちが不安定なんだろう……? 情けない表情のまま、会議室に2人を迎え入れることになってしまった。 「……ちょっと、那恵!!顔色悪いわよ?」 「……うん、ちょっと吐き気もする。こんなこと初めて……」 「大山さんありがとう。ただ、薬は飲まないで、まず、検査薬を使ってみるといい。妊活してるんだろ?可能性はゼロじゃない。」 何故か玉妃が常備していた検査薬で検査をしてみると……陽性反応が出た。 ――あたし……妊娠してるんだ……

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