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第75話(樹目線)

ちょっとした言葉のすれ違いで飛びたしていってしまった恋人が、他の男に発情させられて、多分、α恐怖症の所為もあり、倒れてしまった。チョーカーを外さない限り噛むことはできないはずだから、そこは気にしてない。 ジャーナリストの匂いに嫉妬などしていたら、オレの『番』が務まるのか?と疑念を持ってしまったのが事の発端だ。 まず、雅が嫉妬をしてくれたことを喜ぶべきことだったのに…… 『宮日の次男の修二に目をつけられた。番にするなら、早い方が良いと思う……』 ――また、面倒なのに目をつけられて…… 都合よく、発情の兆しがあるなら、今夜、番にしてしまおう。もう、雅がなんと言おうが、最後の自由は満喫させてやったつもりだ。すでに賃貸アパートの荷物は引越し屋に手配してある。明日には自宅に届くだろう。 逃げたところで、こんな至近距離であれば、簡単に見つけられる。知った上で、外に出るのは大山とだけ、それ以外は外に出ないのだから、連絡が来るまで待っていた。 連絡先を消去したのごとく、一向に連絡が来る気配はなく、そろそろ強行突破するところだった。たまの出社を狙ったのは、宮日としてもわざとだろう。 「悪いね、これ、彼の荷物。それとうちの那恵 妊娠したから、彼にも伝えといて?」 車の鍵をチャリチャリ鳴らしながら白石は自分のパートナーを支えて出ていった。 オレも雅を担ぎあげ、事務所に挨拶をして出ていく。至近距離に雅の匂いがする、と言うだけでこっちまで発情してしまいそうだが、帰宅までは待て、と理性でそれを止める。 車の中で目を覚ました雅に 「仕事でのイラつきをぶつけてすまない……戻って来てくれ……大山さんも妊娠したそうだ。この間は仕事でのイライラをぶつけてすまなかった。オレも頭を冷やす時間が欲しかった……」 雅は黙っていた。俯いたまま真一文字に口を結んでいる。ようやく口を開いたと思ったら 「……戻りません。今のアパートへ帰してください……あなたとの『番』契約はしません」 「ダメだ。戻るのは危険だし、今日の宮日修二と番の約束でもしたのか?」 「…………そうです……だから、もうあなたは必要ありません。」 間が長い。嘘だとわかっていても、ちゃんと会話をしなければならない。 「とにかくオレたちには話し合いが必要だ。その上で判断してくれないか?」 「……わかりました……」 納得のいかない返事だったが、一応は受け入れてくれたことにホッとする。けれど、言葉は敬語のままだ。 そのまま無言になり、雅は無表情で流れる外の景色を見つめていた。どことなく思い詰めているようにも見える。そんな顔をさせてるのが自分かと思うと申し訳なさが溢れてくる。 それほど長くない距離ではあったが、マンションの駐車場に車を停めて、エレベーターに乗る。その間も常に無言で距離を取られた。軽くショックを受けたが、話し合えばなんとかなるだろう、と思うのは間違ってるだろうか? ソファーに座らせて、すぐに雅の好きな紅茶を淹れる。雅は猫舌だからすぐには口をつけない。隣に座り、雅を抱きしめると両手でそれを拒絶された。最初にこの部屋に来た日のことを思い出す。 「……やめてください……でも、あの子との約束だから、あなたの子供は一人産みます。でも、番にはなりません……」 「頭を冷やした結果がそれか?」 「……そうです。僕は誰のものにもなりません。宮日修二でも、嶺岸 樹でも誰でもいいんですあなたの言う『唯一無二』には僕は向いていません……番が欲しいなら、あなたならよりどりみどりでしょ?僕でなくたって……」 「オレは雅がいい……雅以外、イヤだ。他のαに狙われないように今夜、番にしたい。今、ヒートしてるんだろ?少し遅れてしまったけど、オレの気持ちは変わらないから。」 雅の首元に顔を近づけて大きくその香りを嗅ぐ。こちらがヒートに引きずり込まれることも簡単なことだった。 「チョーカーを外して……?」 Ωはαには逆らえない。スマホをとりだして、アプリを開き暗証番号を入れるとカチリと音がしてチョーカーが外れる。その項を舐めると、ブワッと雅の香りが広がった。

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