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第77話

どうせ家にいるなら、と母が家事全般を教えてくれるようになってから、夕飯は僕が作ることが多くなったが、まだ、樹の腕前には届かない。努力はしてきたつもりだ。 『そんなに番になりたければ抱いてやる』 そんな言葉に衝動的に家出をした。 2ヶ月後、発情期に合わせて連れ戻されて、ヒートで訳が分からなくなっている間に、気がついたら首筋を噛まれていた。ただでさえ長い射精の飛沫を浴びる度に快感が広がるのに、それ以上の快感と今までに感じたことのない感覚が全身に広がっていく…… 「あ……あぁ……あ、あ、あぁぁぁぁ……」 満たされていく躰の反応が、唯一になったαのために塗り替えられていく…… けれど、僕は拒否をしたはずなのに、なんで彼はそれを無視して番にしたのだろう……? 僕はもう、この男のものになってしまった…… あの子との約束は果たせるだろう…… けれど、これでいいのだろうか……? 大山の妊娠がわかった今、次かその次の発情期には僕も妊娠しなくてはならない。それが僕らの約束だ。大山の言う通り、嶺岸でなければ、抱かれることはムリなのだろう。 僕の唯一になったαの嶺岸に僕は一生、嶺岸に連れ添うΩになった。嶺岸に限ってはないだろうが、番の解除をされない限り。 はぐれΩになるのだけはイヤだ。だから、僕はチョーカーを捨てることは出来ないし、今後もつけていく予定だ。噛み跡も隠せるし、仕事に私情は持ち込みたくないからこそ、女性ではない僕はその噛み跡を隠すには髪では隠せないからこそ、チョーカーしかない。 覚悟を決めたはずだったが、再度覚悟を決めることになるとは思いもよらなかった。 ――覚悟を決めて、生涯この人についていこう……たとえ何があろうとも…… 絶対に僕の方が先に旅立つだろう。その間はそばにいることを誓おう。もう、遠慮も何もいらない。好きなだけ求め合おう。 「……もっと……もっと、欲し……い……」 愛しさが躰の中に渦巻いている。もう、離れるとこなんてムリだ。この男にだけにしか発情しない、この男しか求めない……求められない ――これが番うということなんだ…… 僕という人格が塗り替えられていく…… 僕は生涯1人で生きていくと決めたはずだった。セックスも知らないまま、子供を産むこともないと思っていた…… それがどうしたことか、この男の子供が欲しい この男の遺伝子を残さなくてはならない…… そんな使命感に駆られている。これが番になるということなの……? αとΩのカップルが周りにあまりにもいないから、本で読む程度の知識しかないけれど、もし、今後、嶺岸が番の解除をしても、他の誰かと番おうとは思わない。たとえ発情期が苦しくても、他のΩを番にしたとしても、日陰の身になったとしても、後戻りは出来ない。それくらい深いところでの繋がりが出来てしまった…… 愛しくてたまらない……これまでに感じていた気持ちがいかに軽いものだったかを思い知る。 「……もっと……もっと……ちゃんと……僕を愛して……同じくらい僕もそれを返すから……」 嶺岸は……樹は目を丸くして僕を見る。 「……これ以上ないくらい、ずっと変わらない気持ちで愛してるよ?オレの雅……ずっとオレだけの雅だ……」 切ないほどの声色に胸が締め付けられる。 こんな胸が痛い気持ちを抱えていたのか……たぶん気持ちがシンクロしているんだ。そのシンクロは番でなくなるまで続くのだろう…… 胸の痛みに涙が溢れた…… 「樹……樹……あぁ……いい……もっと激しく……突いて……あぁんっっ!!」 離れていた時間が嘘のように溶け合っていく。結局、何度も抱き合い、その後も抱き合いながらひたすら愛の言葉を囁きながら眠ることを忘れたかのように一晩中、キスを繰り返した。

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