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第78話
あれから2度目の発情期に向けて、僕は薬を飲むことを辞めた。妊娠をするためだ。
案の定、テレビでは僕との番になったとショックを受けている女性がインタビューを受けてるのを散々みてきた。僕が本当に、樹の子供を身篭っていいのか?と思ってしまうけど、番になったのは僕なのだから、と前向きに考える。
ずっと後ろ向きに物事を捉えていた身としては随分とポジティブになったと思う。今回の発情期に向けては、僕の呼吸困難を恐れて仕事を前倒しにしてくれている為に、朝早くから出ているのに帰宅が遅くなっている。僕の発情は特殊だ。下手をすれば命を落とす程には。薬を飲んでいれば、そんなことはないのだが、ヒートを起こすと……特に今回は薬を飲まない、という前例を作っていない。
大山のお腹も少し出てきている。が、相変わらず出社はしてるようで、産休時期に入るではバリバリ仕事をするとの事だったが、さすがに車の運転は白石が止めているから、通勤は白石が送り迎えをしたり、現場にはいる時はΩが運転していっているようだった。妊婦でも運転できないわけじゃないが、白石は母子ともに安全に子供が生まれることを望んでいる。
僕は変わらずの在宅勤務でいる。絶対安静が、嶺岸と医者の見解だった。冷蔵庫の中身から夕飯のメニューを考える。買い物に出ないように、と嶺岸は色んな食材を買ってきてくれる。練習も兼ねて作りたいと言ったのは僕だ。賞味期限の近いものや、傷みそうな野菜を取り出して母に教わったレシピを思い出しながら、何とか夕飯を作る。朝、昼は適当に魚を焼いたり、軽く済ませられるものを作る。宅配を頼んでもいい、とも言われるが、余程のときでないと頼まない。
まだ、妊婦でもないのに、僕だけが甘えている訳にはいかない。
「そろそろ妊娠する準備にはいるんでしょ?栄養をつけないとね、ただでさえ食が細いんだから」
母が一番乗り気かもしれない。内孫である兄のところの子供がなかなか会えない、となると、僕の方の子供を甘やかしにかかるだろう。
「あまり、甘やかし過ぎないでよ?」
「それはわからないわ〜、だって、孫は可愛いもの!!責任がない分、さらに可愛さが増すのよ」
――……んないい加減な……
「ツワリが酷かったら、それ用の食事も作れるから、遠慮なく妊娠しなさい!!」
「……母さん、あのさ、Ωとはいえ僕は……」
「Ωだからでしょ?娘とは思ったことはないけど、子どもを産める躰なんだから!!本当は雅の孫も欲しかったのよ?雅はそういう子にならないと思ってたから、なおさら嬉しいのよ。」
そういうものなのだろうか……孫の面倒を見たい、というのも本心だろうが、ド直球で来られるのもなんだか、恥ずかしいような……
「せっかく番になったんだから、思いっきり嶺岸さんに甘えつつ、支えてあげなさい」
母もまがりなりにもαを夫に持つ身だ。父のようなタイプは大変だったろうが、今でも献身的に尽くしている。通ってくれているのも父が帰宅した際には必ずお迎えをするからだ。
父は家庭的なことは何一つできないが、父の猛アプローチの末に結婚したのだ。母の両親はともにβで、αとの結婚には難色を示した。
多少の浮気癖があっても、外に子供は作ってこない。それは母を一番に思っていることの表れでもあるのだという。僕には耐えられそうにないけれど。
だからこそ、『唯一無二』を探していた嶺岸と一緒になることを選んだのだと思っている。
まもなく発情期が来る……
この一週間の間に、彼の子供を妊娠するだろう。楽しみであり、怖さ半分で初めての妊娠生活を過ごせるか……母や嶺岸の手助けがあって初めて、少し勇気が出るような気がした。
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