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第79話

産気づいたのは僕の方が先だった。けれど、産んだのは大山の方が僅かに先だった。 「同じ日に出産できるなんて、あたし達、ママ友にもなるんだね。次もあったらまた、計画して同じ日に産もうか。あはは〜」 と笑う。そんな僕は今はベッドに横になったまま酸素マスクをしている。薄く微笑むことしか出来ないけれど、まさか同じ日に産むことができるとは思っていなかった。予想どうり僕のところは男の子、大山のところは女の子を出産した。たぶん、2人ともαだ。 「万が一、うちの娘があんたと同じ体質だったら、アドバイスよろしくな?」 「大丈夫、αだよ。まだ、見てもないからわからないけと、僕の勘がそう言ってる。」 「あんたのとこの坊やも凛々しい顔してるよ。あれはぜったいαだね。私でもわかるわ。」 白石はキャッキャっ言いながら娘の写真を撮りまくっている。看護師さんに『もう少しお静かに!!』と注意されてる声が聞こえる。 「まだ、嶺岸さん来れないの?」 うん。と頷き、口パクだけで、〝まだ、仕事が終わらないみたい〟と伝える。 「売れっ子も大変だねぇ。ちゃんと番の発表も、安定期に入ったのも報道されてたのにね〜。今度は産まれたことを報道されるわよ?」 僕は苦笑いをするしかできなかった。 嶺岸の行動は早かった。番になった次の日にはメディアに結婚を告げ、お腹が出はじめたタイミングで、ツーショットでの買い物を撮られ、安定期に入ったから、と僕の妊娠を報道した。今度は出産したから、帰宅時には子供を抱っこした嶺岸を撮られてしまうかもしれない。 白石が持ってきた、というベビー服で退院の時にオシャレして退院できるように、と肌着から何から一通り揃えてくれている。産院では産院用の肌着を着せられるから、持参しなくても良い。ただ、退院する時は自分のもので帰る。2人とも3000g弱での出産で、すこぶる健康状態も良い。洗濯済というところもありがたかった。着替え分も十分過ぎるほどもらった。白石は『出産祝いだよ』とニッと笑っていた。 「嶺岸にも写メ送っといたから、今頃デレついてるはずだよ」 とケラケラ笑っている。妊娠中は……特にお腹が大きくなってきた頃には、愛おしそうにお腹を撫でていた。妊娠を決めた次の発情期に発情が見られなかったから検査をしたら、陽性反応が出て妊娠がわかった。抑制剤を飲まなかっただけでこんなに簡単に妊娠するものなのだと僕自身もかなり驚いたくらいだ。 それが『特殊Ω』のせいなのか、αとΩだから、なのかはわからない。ただ、あの時の子を暗闇から救い出せたことが僕にとっては1番の気持ちをスッキリさせたことでもあった。 「産まれてきてくれてありがとう……」 僕が彼を見た時に最初に出た言葉だった。成長すれば、きっとあの子にそっくりになるだろう。まだ幼すぎる我が子に彼の面影を重ねた。 その時、病室のドアをノックする音がして返事をする間もなくその人は病室のドアを開けた。 「お邪魔するわよ?」 突如入ってきたのは、樹の義理の母親だった。α恐怖症はある程度解消されているが、母親はΩだが、後妻とはいえ良家に嫁いだだけあり、堂々としている。1度、安定期に入った頃に挨拶をしただけの人だ。末っ子のところに出来た孫を見に来たらしい様子ですでに孫の顔は見てきた様子だった。 「ご苦労さま。これからが大変になるけど、たまには顔を見せに連れてきてちょうだい?長男のところにも2人αがいるけど、ウチを誰に継がせるかは成長を見て判断するから、あなたも気を抜かないようにね。次男のところにはまだ、子供がいないし、αが生まれるとも限らないから、あなたも頑張ってαを産みなさい。」 授かりものについて、αだけを産めるか、はわからないが、僕のような特殊Ωだけは産みたくないと思う。それはそれで可哀想だからだ。その辛さを知っているが故にそう思う。けれど、樹と出逢えた奇跡は……子供にも恵まれたこの人生も悪くない、と思い始めている。 「大切に育てていきます」 僕は酸素吸入器をズラしてそう答えた。満足そうな表情で、彼の母親は帰っていった。 「なに、あれ。感じ悪い!!」 大山が母親に聞こえないように呟いた。 「あれでもあの人なりの優しさなんだよ。元々、お嬢様だから、しょうがないんだよ。Ωはαを産むために存在してるということを強く思い込んでる人だから、僕も初めて会った時はビックリしたけど、色々と教えてもらったらストンと落ちるものはあったんだ。孫の顔を当日に見に来てくれたことが僕にとっては嬉しいことだよ」 そう。平凡な家庭に育った僕らとは違うんだ……そもそもの価値観が違う。樹に話を聞いていてそれは強く感じたことだった。嶺岸の家にいくら三男の相手とはいえ仲間入りしたのだから、家族が関わってくるのは当然のことだと思うのだった。

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