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第81話

案の定、帰宅時に浬と一緒に3人でマンションに戻ったところを撮られた。 性別、名前は伏せて生まれたことだけを認めた状態だ。男女の性別は成長すればどうせバレてしまうだろうけれど、その他にα、Ω、βと3つの性別もあるのだ。 白石家も名前が決まったそうで夢妃(ゆめひ)と愛らしい名前がつけられた。大山が譲らなかったらしい。『初産で、那恵が頑張ったんだから、最初の子は那恵から文字を取ろうと思ったのに、αの女王様に育つだろうから、『妃』の文字は外せない、なんて言い張るんだもの。私をなんだと思ってんだか……』 そんな言葉さえ惚気に聞こえてくるのは気の所為だろうか? 忙しくなる前に、と先にピンクとブルーの発案書は大山に送付してあった。これからしばらくの間は3時間ごとの授乳やオムツ交換というものが一気にのしかかってくる。病院では貰えていた睡眠時間は当然削られる。3ヶ月が経過する頃には落ち着くとは聞くが、その子の性格もあるだろうから、確実な話ではない。 男Ωは僅かな間だけ膨らんだ胸から最初だけ出る初乳以外は粉ミルクになる。胸も萎んでしまうし、授乳するほどの量は出ない。初乳から親の免疫力を貰うだけの機能でしかないが、浬は出ないことを理解してるのか、というほどに素直に粉ミルクを飲み、夜はしっかり寝てくれる子で、それほどの苦労はなく夜泣きに悩まされることも少なかった。 逆に夢妃様は既に女王っぷりを発揮してるらしい。白石が妬くほど那恵ママにベッタリで夜泣きもなかなからしい。完全母乳で育ててるらしい。哺乳瓶を受け付けない子らしい。 「那恵がこんな名前つけるから、ライバルになってる気がしてならない……」 白石にしてはなかなか笑える発言だ。女王様っぷりは専売特許ではなかったのか?と思う。しかも、自分が最初にプロポーズした子供を産んで欲しいという言葉はどこへやら、だ。念願が叶ったというのに、すでにヤキモチを妬いているとは…… 浬も起きてる時は確かに僕にベッタリなのだが……2週間は家事すら危険だと産後は休むように、と身の回りの事を母がやってくれていたので、浬とのんびり過ごすことができている。 本来なら実家で過ごすべきなのだろうが、嶺岸の子供、ということでパパラッチに狙われる可能性もある。荷物を運ぶのも大変なのでそのまま嶺岸家にいることとなった。 「いつもべったりくっついて寝るのな」 「お腹の中でずっと僕の心音を聞いてたから、心音を聞くと落ち着くんだよ。たぶん、樹もこういう子だったんじゃないかな?」 「お袋の心音を聴きながら寝てたとか想像できねぇわ……だいたい、あの人に子育てができるのかもわからないしな……物心ついた頃には芸能界にいたし、マネージャー兼乳母みたいな人がいたから、育てられた、って感覚ないんだよ。飯だって、料理人がいたから、あの人の役割は親父の玄関での送り迎えと夜の相手くらいだろ」 「お義母さんに失礼だよ?まぁ、αのお嫁さんってそういうものじゃない?うちも母さん、時間になると帰るでしょ?帰宅した時に母さんがいないとすごい不機嫌になるんだ。樹はどう思う?僕はどんな形であれ、今の仕事は続けていくつもりだけど、リモートになるか出社するかはまだ、決まってないけどね? そういえば、次も同じ歳で産もうって大山さんが……クスクス」 夢妃様が離れないうちから……と思うとふと笑ってしまう。完全母乳から離乳食に移る頃には、しっかりと那恵ママのごはんを食べる子にはなっていたらしい。浬も負けずに離乳食をしっかりと食べて、足りない分はフォローアップミルクで、すくすくと育ってくれていた。 ところが、次の生理が来る前に……と白石が楽しんでいるうちに、大山が次の子を妊娠するまで、それほど時間は要さなかった。

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