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第82話
「セックスすることはオレは構わないけど……そんなに立て続けに産んで大丈夫なの?いくら妊娠期間が短いと言っても向こうは自然妊娠なんだろ?計画妊娠じゃない以上、オレは反対だ。雅の場合、発情期が来ないことには産むのは厳しいんじゃない?その次の妊娠が可能な時期を選んだ方がいいんじゃないかな。無理やり発情させて躰に負担をかけるより、女性に生理が戻るのと一緒で、躰がちゃんと元に戻ってから、妊娠できる時期にちゃんとした方がいいとオレは思う。大山さんはβだから、年子なんて前例は山ほどあるけど、雅はΩなんだから、β女性とペースを合わせるのはちょっと違うと思うんだ。ただでさえ命の危険が伴うとことなのに、そんな簡単に相手の都合だけに合わせる必要性はないし、個人のペースもあると思うんだ。オレは少しでも長く雅と一緒にいたい、と思ってる。すでに浬がいるし、浬が可愛いと思う。だからこそ、リスクを背負ってまで子供が欲しいとは思わない。オレ間違ってるか? 」
正面からド正論をぶつけられて少し頭が冷えた気がした。確かに僕と大山では何もかもが違うことは、誰よりも僕が知ってたはずなのに……
「譲歩として、4ヶ月後に発情期が戻ったら、オレは協力する。ただし、医者の許可が下りたら、の話になるけどいい?」
僕は頷くしかない。出来ない。
「雅に万が一のことがあったら、浬に恨まれるのはオレだ。恨まれることは仕方ないとしても、浬は雅が魂で出逢って暗闇から救いだした子なんだろ?その時の記憶が浬に残ってるかはわからないけど、浬が雅を選んで産まれて来た子なら、浬を寂しい子にさせるわけにはいかないんじゃないか?それに、オレの1番は雅だ。雅がいて、子供がいて成立する。浬がいれば、オレは別に他に何人も産め、とは言わない。兄弟はいた方が良いのかもしれないけど、雅を犠牲にしてまで作るものじゃないと思うんだけどな。それにもしものことがあったら、オレがオレを許せない。そんな人生を選ばせる気か?」
樹の言ってることは全て正論だ。まだ、1歳にも満たない浬の成長は見たい。愛しい樹と僕との愛の結晶だ。どことなく樹にも似てるような気がする。母親がいない可哀想な子にはしたくない。自分が育ってきた環境がそうであったように、両親共に健在してることが(発情期を除いてだが)どれだけ自分の精神面に安心感を与えてきたか、身に染みてわかる。
たまに父親はデリカシーのないことを言うけれど、嶺岸と初対面の時に、どちらを選ぶ、選ばないはともかく、僕に帰る場所をくれた。
帰る場所があると言うだけで、なんという安心感だろう。仲違いをしていたわけではないが、僕がΩだとしても、決して『自分の息子』であることは置き去りにしていなかったんだ。
そのことも嬉しかった。
樹は子供が産まれた今でも、僕が1番だと言ってくれる。子供が二の次、ということが少し残念ではあるが、僕がいて浬がいる幸せを感じてくれているのなら、その幸せを壊すわけにはいかない。僕の『運命の番』なのだから。そして、樹の『唯一無二』であることが、自分の存在意義でもある。僕に『唯一』をくれた人……だからこそ、この幸せを崩すわけにはいかないと思う。大山には追いつけそうもないが……
また、同じ月に産むとすれば、4ヶ月後には発情期が2回目であること、医者の許可が必要なこと。条件は決して普通の人には難しいことではないだろう。けれど、まだ、産後の発情期はまだ来ていない。そろそろ早い人であれば復活してる時期には来ている。僕の体の準備が整っていない証拠だ。全てを見抜いた上での譲歩であることは明白だった。
βの女性とは違うのだ。Ωの女性であっても、たぶん体の作りが『女性』というだけで、男性Ωとは全く違う。生理も発情期もあるのだから、大変だと思う。次の子ができてしまえば母乳はあげられなくなる。夢妃様は乳離れ出来るのだろうか?
元々頭のいい子らしく、少なくなり出なくなることを悟った夢妃はフォローアップミルクを受け入れるようになったらしいが、浬は変わらぬ毎日を過ごしている。寝返りを楽しんだり、ハイハイをして僕のところに来たりと、着々と成長を見せてくれる。
2人はすくすく成長していた。
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