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第83話

『そっか、そうだよね。2人目同級生は諦めよう。どうせ玉妃のことだから、まだ産ませるだろうし、その時は計画的にいこう!!』 大山は常に前向きな人だなぁ……と改めて思った。お互いにリモートワークに入っている為、パソコン越しの会話だ。互いに赤ちゃんを胸に抱き、抱っこしながら寝ている状態だ。 『でもさ、あたしがこんなに満たされた生活を送ることができるとは思ってなかったよ。夢妃がいてくれることで、和むんだ〜。玉妃がヤキモチ妬くことだけが面倒なんだけど……だからって玉妃の相手もすれば……な〜んてうちに出来ちゃったわけよ』 あはは……と苦笑いをする。そろそろ僕も樹にさせてあげた方がいいんだろうか……?いや、でも発情期はまだ来てないし……思わず考え込んでしまった。 『悪い癖が顔に出てる〜!!ちゃんと言われたんでしょ?発情期が来てからって。大事にされてんじゃん。あたしはβの女だから結構、普通なことなの。でも、男性Ωとなるとちょっと勝手が違うのよ。そりゃあ繁殖機能としては女性と一緒だけど、体の作りが男性なんだし、堕胎経験だってあたしの所為であるわけだし?』 言いたいことはよくわかる。樹も言ったのだ。『医師の許可を得てから』と。大山にそんなことを言わせたいわけじゃない。 「……うん。ごめん、ちょっと考えすぎてたかもしれないね。 兄弟は作ってあげたいけど、僕にはブランクが必要だよね……」 と自分に言い聞かせるように言う。頭ではわかってるんだ。もう、浬だって11ヶ月になろうとしてるんだから。別に年子である必要は無い。僕と兄だって離れてるんだから。 『そういえば、杉本の案件良かったよ。着々と売上伸ばしてるし。会社を通さなかったけど、社長にはたぶんバレてるよね〜……でも、玉妃はすごい気にいってるよ?あたしが何も手を加える必要もなかったし、本当にすごいわ』 「そんなに褒めても何も出ませんよ?でも、そうだね。僕の色が出ちゃってる気がする。」 そこは反省点かもしれない。1からものづくりをすることが楽しいのは事実だ。が、子育てはそうはいかない。作る行為自体は気持ちイイが妊娠すれば悪阻に悩まされるし、治まればお腹が出てくる。内臓が圧迫されるし(特に膀胱)産むのも一苦労だ。産まれたら産まれたで一日の大半を子供の面倒で時間を取られる。 ある程度成長するまでは、手がかかる。1人目ということもあり、手探りでの子育てだったが、浬は聞き分けのいい子だった。 こんな楽な子育てをしていたら、次の子で苦労しそうだな……と本音で思うほどに。 もしかしたら、以前の記憶をもちあわせていて、喋れないだけかもしれない。2~3歳まで記憶を保持して、その後は消えてしまう、と言われている子供も中にはいるとよく聞く。 自分から話してくれるか、何気なく聞いてみるのが良いのか分からないが、その時が来れば何となくわかるだろう。 淡い期待を胸に浬の成長を待つことにした。 「また、新しい案をいくつか考えたんだ。いつまでも同じままじゃ、視聴者側も慣れちゃうからね。何十年も流せるようなものは僕にはまだ、作れないから……」 『そんなCM作れる人なんて滅多に居ないわよ。そのCMに余程のインパクトと、起用する人選にもよるわね。俳優だって芸人だってテレビに出続ける限り年齢を重ねていくんだから、CMとその人の外見が合わなくなれば違和感が生じるでしょ?だからって亡くなってしまった人のCMなんて流せない。色んな偶然が重ならない限りはそんなものを作れる人の方が奇跡だよ?だいたいが売れてるタレントを起用する訳だし、忘れ去られた人を起用するのも違うでしょ?毎年同じCMを流してたって、多少のアレンジを加えて撮り直すもんでしょ?それがお互いにとってウィンウィンだからよ』 金の流れがなければ、タレントも制作側も食いっぱぐれる、ということか…… 「長くこの仕事を続けたいから、その考えは捨てることにするよ」 『そうそう、お互いに頑張ろうや』 画面越しの大山はニッとわらって、僕の案を精査するから、と通話を終了した。

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