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第85話

「浬はもう寝たのか?さすがだな」 ニヤニヤしている樹を睨み上げ 「普段はこんな時間まで起こしてないんだから、少しあやしただけですぐ寝たよ?それに久々にパパに会えて嬉しかったんじゃないのかな?それに、どっちの意味でそれ、言ってんの?」 「ママ、の意味だよ。オレじゃそんなに簡単には寝てくれないだろ?それに2人の時間も十分に味わいたい。久しぶりだからな」 樹のニヤニヤは収まらない。 「じゃ、なんでそんなにニヤニヤしてるの?」 「そりゃあ、愛する番の発情期が久々に来たんだ。こっちだって期待するのは当然だろ?」 当然かどうかは……どうなんだろ? 厳しいことを言ったり、期待したり、意見が安定してない気がする。僕も男だからわからないこともないけれど、ただ、生殖機能はないから女性とセックスをしたとしても、子種はない。男性、女性、どちらと言えば性的に経験があるのは男性のみだ。他人と触れ合いたいと思ったことがないからかもしれないが、もし樹がαでなく普通の女性で性的興奮を覚えたのなら、たぶん同じような反応をしたかもしれない。 ただ、子供は作ってあげられないが。 僕は作られる側であり、事実、僕の求める『唯一』と巡り会い出産も経験した。かけがえのない命とも巡り会えた。 「……薬は飲んだから。でも……治まらない……樹が帰ってきてから……特に落ち着かない……」 樹はクスッと笑い 「オレもだよ。こんなにいい匂いが待っているかと思うと仕事も早々に切り上げたい気分だったよ?やっと抱けるかと思うと嬉しくて」 急に頬が熱くなる。ヒートとその言葉と両方にだろう。自分が潤っていくのがわかるほどだ。 「このままじゃ下着が濡れちゃう……」 「濡れたら取り替えればいい。もっと濡らしていくんだから……」 「……早く……シて?」 もう腰の奥が疼いて仕方ない。のに、下着に手を入れて後孔を確認するように指が滑る。 「もうぐしょぐしょじゃないか……オレにだけ発情するっていいな……もっと焦らしたくなる」 「こんな時にSっ気出さなくていい……あっん」 ツプっと指が1本、中に挿入ってくると腰が揺れるほどに気持ち良くて、つい声が出てしまった。中途半端に抜き差しされる指が焦れったくて切なくて目元まで潤んできてしまう。 「……いゃん……立って……られなく……なる」 「そんなに待ち焦がれてる?嬉しいなぁ」 「そういう樹だって……勃ってる……んんッ」 指でそっと撫でると、ピクッと自身が跳ねて強度を増していく。すっと指が抜かれたタイミングで僕は腰を落としながら、短パンを押し下げ樹を口に含んだ。口の中に雄の匂いが広がる。先走りだ。丁寧に愛撫をするように舐めまわし口をすぼめて首を前後に動かした。 「それほどまでに欲しい?そこまで求めてくれるようになってくれて、すげぇ嬉しい……初めてここに連れ込んだ時からは考えられないね。 プライドの高い純潔の処女って感じだったもんな。『イヤだ、イヤだ』って言いながらも気持ち良さそうだったのを思い出すな……」 「んぅ……思い出さなくて……いいよ……」 「……ッ!!そこで喋んなよ……出ちまうじゃないか!!オレは雅の中でイキたいんだから……」 「へぇー……遅漏の樹がそんな簡単にイクとは思えないんだけど?」 「溜まってんだよ!!それとも濃いのを飲みたいのか?それなら話は変わってくるけど?」 「どっちでもいいよ?僕は樹にしか発情しないんだから。他のαのなんか飲めないし、番以外と触れ合うこともないんだから」 Ωは番になればその番にしか発情しないし、他のαと肉体関係を持とうとすれば、猛烈な体調不良に襲われる。吐き気から始まり下手をすれば倒れて動けなくなることもある。 その間も嘔吐は続くから、他のαは手も足も出ない。それくらいΩにとってのαとの番は唯一無二だ。逆にαはΩのヒートにあてられると、理性を保てなかった場合は番になれてしまう。僕の不安はそれだけだ。 樹が万が一にも他のΩを抱いてきたのなら、僕は一線を引くしかない。たまに仕事で役者Ωの匂いをつけて帰って来ることがあるが、それは仕事だと思って諦めるしかない。 僕の中にこんな醜い嫉妬心が潜んでいたとは、自分でも気づいていなかった。 他人を愛する、ということを何から何まで教えてくれているのは他ならぬ『運命の番』の樹だということ。とうとうがまんできなくなったのか、僕は樹の手を引かれ寝室へと向かうことになった。

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