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第86話
「……んッ……んふ……ファ……んんッ……」
長い長いキスの間も肌を撫でる手は止まらない。弱い場所を重点的に攻められて躰がピクピク動いたり、躰が揺れたり無意識に逃げるように身を捩るが、すぐに戻されてしまう。
浬は別部屋の子ども部屋でぐっすり寝ている。モニターで見れるようにはしてある。2LDKのこの家では、あと一人が限界だろう。『私くらい産みなさい』と言うならもう一部屋必要だ。
「……たつ……き……アァん……んッ……アァ……イイ……そろそろ……入れて……」
「まだ、固い。もう少し指を増やさないとな」
前立腺を刺激されながら僕の腰はつま先に入った力で腰が浮いて揺れている。
「最初は後ろからの方が良さそうだな……」
そういうと僕の躰を反転させて腰が上がった状態で前も後ろも攻められたてる。
「イクっ!!イッちゃう!!」
ほぼ悲鳴のような叫びが部屋に響く。
「何度でもイケよ。空っぽになってもイカせてやるから。雅だって待ってたんだろ?」
「……っ!!そう……だけど……アァ……」
そりゃあ、僕だって男だ。抱かれる側だけど、こんなことを散々教えこまれて来たんだから欲しくないわけが無い。セックスがこんなに気持ちイイことだと教えたのはこの目の前の男だ。強姦 の時は怖いだけだったけど、樹と触れ合っている時が1番気持ちイイ……
そりゃあ、浬が産まれてからはハグやキスだけだったけど、肉体同士の繋がりには愛情を求めてしまう。『ただの性行為』……『子作りの為の作業』とは思いたくない。この一週間がすぎたら、次の発情期はまた2ヶ月後……発情期だろうと関係なく求め合っていた浬が産まれる前の生活には戻れるんだろうか……?
子供が産まれたら、男性は女として見れなくなる、というβとαとΩでは何が違うのだろう?
「……何考えてるの?まだ気持ち良さが足りない?せっかくの久しぶりのセックスなんだから楽しまなきゃ、じゃないの?」
「……ちがっ……んんッ……樹は何人子供欲しい……?アァんッ……」
「自分が3人だったから、3人かな……ッ……でも、雅の躰が第一だから、ムリは考えるなよ?そろそろ頃合いかな。挿入れるぞ?」
既に見抜かれている。後孔にあてがわれてゆっくりと樹が侵入してくる。キツさは少し感じたが、久しぶりだから仕方ないけれど、もっと奥へ、もっと奥へ、と内壁が扇動する。
「躰を重ねるのは愛情表現だと……僕は……んッ思ってる……だから……抱かれなくなったら、どうしよ……って……アァ……」
「ハァ……ッ……何があっても生涯、雅だけを愛してる。それだけは忘れないで……雅の中、最高に気持ちイイ……絶対に手放さない……」
その言葉に安心した僕は、全ての心配事を頭から排除して触れ合いに夢中になることを決めて樹から与えられる快楽に溺れていった。この感覚は久しぶりだ。穿たれながらただ、樹を感じている。愛しい男から与えられる快楽に、番になる前までの感覚とは違う快楽を得ている。
噛み痕を舐めてる時の愛おしそうな舌の動きが、より一層の愛おしさを感じる。
「……アァんッ……僕は樹だけの……モノ……」
「……そうだ……オレだけの雅……」
お互いにヒート状態になって、興奮した息遣いで抱きしめられた。
――なんて気持ちイイんだろ……
「……イイ……アッ…ン……アァ……アッ……」
もうまともな言葉など紡げない。自分の中で脈打ちながら攻め立ててくる……なかなか愉悦で開けない眸が薄く開いた時には目の前の樹のことだけを見つめ、感じ入った表情が見れることにただ、ただ幸せを感じる。この男にこんな表情をさせられるのは僕だけなのだと……
その夜、僕らは貪るように互いを求め合っていた。樹だって明日も仕事なのに……と思いながらも、αのタフさを知ることになるのは翌日のことだった。
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