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第87話

結局、医師の許可が降りず、2人目同級生の話は予想通りに流れた。 ただ、ブルー&ピンクの子供服の仕事だけは、僕らふたりで小さな会社を立ち上げて、仕事をもらっている。まだ、元々のツヴァイ・コーポレーションの仕事ももちろん続けている為、少しハードではあるものの、浬の世話を理由にほとんどの仕事を自宅でさせてもらっている。 撮影でどうしても抜けられない時は、母が喜んで家に来てくれてるので、浬の面倒は甘やかしバァバと2人でお留守番をしてくれているが、母の趣味で着せ替えごっこをされるらしく、帰宅すると浬は疲れきってることが多かった。 大山の次の子供も女の子だと性別はわかった、とのことで、玉妃さんは喜んでいるらしい。 あの二人は女の子しかいらないようだ。どちらも女系家族だから、男の子の率は低いのかもしれない。逆に僕らは男性家系だから、男の子の率も上がっているのかもしれない。 「だけど大丈夫なの?いくら2人目とはいえ、そんなにガッツリ働いてたら夢妃様だってまだ小さいから寂しがるでしょ?すでに産まれてる子供の世話と自分の体調ときちんと相談はした方がいいよ?」 「前にできて今出来ないことがあるかなぁ?最近は夢妃も言うことがだいぶわかるようになってるから聞き分けも良くなってきてるよ?オヤツだけは聞き入れないからデブるよ?とは言ってるけど。玉妃が甘やかしてるからぷくぷくよ。浬くんはどう?」 「ご飯をよく食べてくれるからぷくぷくは一緒だよ。成長に必要な養分だから、いいんだよ?ウチは逆に浬が起きてる時間にはパパがいないから顔忘れちゃいそうで怖いよ。テレビでパパを見てるくらいだから、テレビの中の人の感覚が大きいかも」 あはは……と笑うしかない。ドラマやCMを頑張りつつ、モデルの仕事もこなしてるのだ。生活感を全く感じさせないイメージ作りはさすがだと思う。とても子持ちの俳優には見えない。逆に今まで以上の色気を放ち世の女性たちやΩを魅了している。 「そっちの旦那はすごいね〜。今やテレビで見ない日はないってほどだし、雑誌でも表紙飾ったりしてるけど、全然、子持ちには見えないわ」 「僕もそう思うよ?子持ちどころか生活感すら感じさせないよ……世の中の人はすでに僕らのことなんて忘れ去っているかもね。僕や浬はその方がある意味過ごしやすいけど、たまには家族で出かけたい、って気持ちもあって複雑だよ」 僕はどこか他人事のように話しているが、リアルな家庭事情である。これから子供が少し大きくなれば、レジャー施設にだって遊びに行きたいし、白石家とBBQやキャンプをすることも企画したいと思っていたりする。白石だって決して無名な社長では無い。ましてや、お互いに家族を増やそうとしている身の上だ。ただ、白石の方は休みがある程度決まっているが、峰岸はそうもいかない。10月頃から『あけましておめでとうございます』なんて番組収録はざらだった。正月番組の大半が収録であるように、芸能人の正月は海外で、ということもテレビでは見てたものの、リアルに正月にソファの隣でテレビを一緒に見てる人が、そのテレビの中にいるのだから、『コレ、いつの収録?』などと聞いてしまえる裏事情も筒抜けだ。 「まぁ、あたしらみたいな一般人じゃないからね。そこは妥協するしかないのか、パパラッチに追われるからの二択だもんなぁ……玉妃だって別に芸能人ではないけど顔は知れてるからね……それなりに撮られたりするけどさ。 でも、杉本の場合仕方ないじゃん?たまたま『運命の番』が有名な芸能人だっただけなわけだし?番のことはよくわからないけどさ、お互いに特定の相手を作らず、子供を産むなんて考えてもみなかったことなのに、今はこうしてお互いに子供がいるわけじゃん?本当に人生なんて何があるかわからないもんだよね」 ――確かにその通りでもある…… 峰岸樹という男との出逢いによって、僕の人生計画は180度変わってしまった。それは大山にも言えることなのだろう。 そして悪い予想は当たってしまうもので、大山はお腹の子供について、あまり良くない反応を示していた。直ぐにその話を聞かされることとなる。それはあまりにも残酷な現実であった。

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