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第90話

2週間後、いざ大山が出産したのはまだ、未成熟な男の子だった。男の子は弱いと言うけれど女の子だと聞かされていたので、玉妃さんも大山もかなり驚いた様子で身内だけでひっそりと彼を現世(うつしよ)から送り出した。 『アレ』が小さすぎて見えなかったのかな?という大山の言葉が妙なインパクトを与えた。 「男の子は元々弱いんだよ。だから大山さんのせいじゃないし、生まれてきても長くは生きられなかったんだと思うよ……」 「大丈夫、うちは女の子しかいらないから、今回の子が男の子でなんだか早々に諦めがついたわ」 ――それでいいのだろうか……? ひとつの疑念を抱えつつ、あれだけ泣いていた大山の気は晴れたのだろうか?確かに男の子は弱い。色んな意味で亡くなることが多いからだ。統計学的に見ても、女の子が100人生まれた場合、男の子は105人産まれると言われている。女の子は3歳までに大きな病気にかかりやすい為、3歳でお祝いをする。男の子は5歳までは大病を患う子が多かった。男の子の小児喘息が5歳でピタリととまる子がいるのも事実だ。 猶予を持ってその二年後まで生きれば、もう、安泰だという意味もあって七五三というお祝い行事が存在する。今では一般的に、成長を祝う行事ではあるものの、昔の人は、その年齢まで生きられた、という意味を持ってそれを祝っていた。諸説あるが、7歳になると男女別々に教育を施されていたという。国によっては引き離されて生活をする習わしもあったようだ。5歳までは油断出来ない、それが男の子の生だ。 だから、女の子は3歳、男の子は5歳まで生きられたらあとは安泰だ、というある種の風習だ。祝い事が分けられているのもその為だと言われている。流産の大半も男の子だと言われているくらいなのだから、身体の始まりは女の子から何らかの変異で男の子になっていく。その名残と言われているのが睾丸を包んでる袋に線が入っているところだ。 ただ、男と女では脳の作りが違う。生き物としては別の生き物で、ただ、人型をしているだけの存在とも言われている。同じ言語を話すがものの考え方が違うのもその所為だとも言われている。ただし、αとΩは別物だ。姿かたちは違っても、繁殖機能が異なるからだ。 だから、僕はどちらかといえば女性脳に近いのかもしれないし、逆に玉妃さんは男性脳に近いのかもしれない。Ωではなくβをパートナーに選んだことからもそれは言える。一目惚れから仲良くなって、一途に大山のことだけを思い続けた彼女はかなり強いタイプの人間だろう。 僕には到底真似出来ない、と思う。誰かを好きになったこと自体がまずは奇跡に近い。と言っても躰から手に入れたい、という不純な動機からスタートしているものだけれど…… 「あんた、礼服も似合うね。肌が白いからかなぁ?なんか、未亡人って感じ」 「勝手に未亡人にしないでよね?ちゃんと生きてるから。本人は仕事で来れなくて申し訳ないとは言ってたけど……」 浬は母に預け、樹は仕事で家を空けている。 「2人目同級生、狙えるね」 不意の大山の言葉に少しだけ疑問を持つ。 「白石家は何人産むの?樹は僕の体調次第で3人とは話してたけど……」 「ウチは2人かな。今回流れちゃったけど、次の杉本の出産時期にもよるかな。3人か……三姉妹も悪くないわね……考えとく」 全員同級生計画発動させる気なのだろうか? 「んで、逆が産まれたらトレードすんの。」 「出来るわけないでしょ。本当にとんでもないこと言い出しますね……血液型でバレますよ?それに自分の子供は自分で育てたいし、うちはお互いに男系兄弟だから、男の子率高いですし」 「……うちはどちらかと言えば女系か……なるほどね。愛されないと思って逃げちゃったか……」 少し、寂しそうな表情したと思ったが大山は大山だった。 「男の子は育て方が分からないからなぁ……女の子っぽい男の子に育てちゃってたかもしれないね〜。子供の時は髪を伸ばして、リボン付けてドレス着せて、大人になってから嫌な顔させんの。それも見てみたかったかも〜」 「……その時は僕が味方になりますよ。浬でもそんな服装させたことないのに……」 「浬くんは無理よ。だって、今からイケメンなんだもん。アイドルみたいな衣装を着せた方が映えるわよ。多分フォロワー数もすごいことになると思うわ。芸能界に入れないの?」 「……それは本人次第だよ。父親が芸能人だからって本人も入りたいとは限らないでしょ?それに、子役時代は親同伴だって聞くし、僕にはそんな時間ないし……子役からやらせる気は無いよ?嶺岸樹イメージも崩れちゃうし……ね。」 さっきも話した生活感を感じさせない、逆に女性やΩを夢中にさせるような佇まいの『嶺岸 樹』のイメージを崩すわけにはいかない。嶺岸の時のように母親の判断でできるものなら、入れていたかもしれないが、子供は親の傀儡ではない。子供には子供の人生や考え方がある。それを無視してまで働かせたい業界ではない。 嶺岸の子供であれば、それなりの才能を持っているだろうが、僕か、嶺岸の才能、どちらを継いでいるのか、なんて今の僕には分からない。 「本当はね、浬くんにはブルー、夢妃にはピンクのモデルをさせようと思ってたの。2人の会社なんだから、起用するモデルは親さえOKならって思ってんの。夢妃よりも聞き分けの良さそうか浬くんの意見も聞いておいてくれない?」 自己判断も難しい年齢だというのに無茶を言う。夢妃様はノリノリだという話したが…… 帰宅して浬に聞いてみると1歳半とは思えなお返事が返ってきた。 「ママのお仕事のお手伝いが出来るなら手伝いたいし、着せ替えごっこならバァバで慣れてる」 舌っ足らずではあるものの、しっかりとした答えを返してきたことに驚いた。αの子供とはこんなにも精神的成長も早いのか……と。

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