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第91話

大山の子供の密葬から2週間がすぎた頃、スタジオの準備ができたから、と浬を連れて撮影スタジオに向かった。僕自身は帽子くらいしか被らずに出た為、浬を抱きながらタクシーに乗る姿をパパラッチに撮られてしまったが、浬は帽子の着いたロンパを着させていたのもあり、まるでぬいぐるみのようだったが、そのおかげもあり顔も写せないように隠していたので、性別の判別はできなかったようだ。ただ今回の撮影でその全貌が明らかにはなってしまうだろう。 他人の憶測で判断されるよりはマシだと思い、ブルー&ピンク専用に作られたクローバー社の専用スタジオを向かうと、色んな衣装が準備されていた。普段使いのものからオシャレ着まで用意されており、夢妃様はフォーマルとカジュアルの中間くらいの可愛らしい服装で、長くサラサラとした髪もきちんとセットされており、玉妃に似て綺麗な顔立ちをしていて、すでに女王の品格を持ち合わせて、堂々としたお出迎えには名前負けしない居て立ちで、浬と同じ日に生まれたとは思えないほどしっかりしていたが、浬も負けてはいなかった。 「……初めまして……でいいのかな?今日はよろしく。あまりにも可愛くてびっくりしたよ」 「……あ……ありがとう。あなたも素敵よ?」 舌っ足らずな二人の会話は正しくはこうだった。まだ、1歳半をすぎたばかりの子供たちがそこまではっきり喋れている訳では無い 「ちょっとぉ、中身までイケメンなのかよ……先が思いやられるわ。絶対に父親の血ね。杉本はこんなこと言わないもん。」 「ぼくはぼくの思ったことしか言わないよ?夢妃ちゃんがあまりにも可愛かったから言っただけ」 「夢妃が本当にαなのか分からなくなってきた。男の子のαってこんなに成長早いの?」 「いや、この子は特別だと思うよ?いつもはもっと甘えたがりだし……仕事と割り切ってるのかもね……仕事に対するプロ意識の高さは……父親ゆずりなのかな……」 こんなに達者に喋れるとは思いもしなかった。それが正直なところだ。いったい、この子はいつまでの記憶を要して生まれてきたのだろう? 「でも、ぼくはママが1番大好きだよ?ママがして欲しいことならなんでもするよ?」 「じゃ、浬も衣装に着替えようか。夢妃ちゃんをちゃんとエスコート出来るかな?」 「やってみる!!」 初めての撮影にも緊張はないようだ。衣装を身につけ、少しの化粧を施してる間も、僕が近くにいたのもあり静かにそれを受け入れていた。 髪のセットも終わると 「どう?ママ。パパに勝ってる?」 絶妙な質問だ。何故、そこで樹にライバル心を燃やすのか……? 「パパとなんで競うのかな?でも、パパと同じくらいカッコイイよ?」 浬は満足そうな表情をしてからスタジオに向かった。そこでも聞くつもりなのだろう。 「お?浬くんカッコイイじゃん!!パパに負けてないくらいカッコイイよ。」 ――そこは言わなくていいものを…… 浬は満足気にニコニコしている。比較対象が芸能界で第一線を貫いている父親はそれほどにコンプレックスだったのだろうか?外の世界をあまり経験させてないからこその言葉なのかはわからない。男性スタッフも、これが『嶺岸 樹』の息子か……という目で浬を見ている。幼い頃から芸能界に身を置き、物怖じしてこなかった樹と根本は似てるのかもしれない。 たぶん、CMやポスターが出来上がった後、芸能界からのオファーが来るんじゃないだろうか?という懸念はある。だからこそ、浬はブルー・クローバーの専属モデルとしてしばらくは活動させる予定だ。ただし、本人が希望すれば話は別だが…… 樹のデビューは紙オムツのCMだったというのだから、今の浬より幼い頃だ。負けず劣らずの容姿をしている浬はスカウトに間違いなく声をかけられるだろう。それは夢妃にも言えたことだ。だから聞いてみようと思う。大山に。 「このCMが成功して、夢妃にスカウトが来たらなんて答える?」 「本人の気持ち次第だけど、しばらくはうちの専属モデルにしたいとは思ってるかな。決めるのは本人だけど、それを求めるにはまだ、幼すぎる気がするのよね……浬はどうすんの?」 「僕としても全く同じ意見だよ」 どこの親も同じようだった。

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