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第93話
映像の撮影も、ポスター撮りも順調に進んでいた。子供たちの疲れを感じさせないために、数日に分けて行なった撮影は今回の撮影としては終盤を迎えている。
2人の愛らしさがよく出ている……と思うのは親の欲目かもしれないが、いい出来映えだと思った。浬は僕が満足さえすればそれでいい、と言う。納得の出来ないものには意見を出していいと伝えてるのだが、ふたりは完璧という程に思い描いたものを実現してくれていた。夢妃からは多少のダメ出しはあったものの、自分の可愛らさが十分に活かしきれてないから、という理由だった。自信たっぷりの女王様っぷりだ。
浬も夢妃様の誕生日も迎え、スタジオでも自宅でもお祝いをして2歳の誕生日を迎えた。と同じ頃、次の妊娠をしてもいい、という許可が降りた。まずは樹の次に大山に知らせて、大山も妊娠してもいい時期に入ったとのことで、次の子同級生作戦(?)が始まった。大山が安定期に入った頃、僕らは作れば十分に間に合う。
数ヶ月にわたる撮影は、一区切りが着いた。
最初に撮影されたCMが流れ出す頃、街角にはポスターも張り出され、大々的なプロモーションが始まった。『KAITO&YUMENO』という芸名で本名をもじってつけれた。最後の1文字が絶妙にあるのとないのとでは、街中を歩いている時に誤魔化せるか、誤魔化せないか、という互いにセレブの子とは匂わせない、というのがコンセプトのひとつに組み込んだ。
けれど、元々の血筋は隠せず、CMが流れると同時にどこ所属のタレントか?誰の子供か?とワイドショーでの話題にあがった。夢妃はともかく、浬こと『KAITO』は樹によく似ている為、嶺岸 樹の息子なのでは?と話題になるも、樹は肯定も否定もしなかった。それは樹の事務所の方針でもあり、僕の希望でもあった。
樹に子供がいることは世間には知られていることではあるが、性別も何も明かしてはいない。今の樹には生活感がまるでない。子供がいるような一芸能人としての顔はもちあわせていないからだ。それならそれを貫き通して欲しい気持ちもあった。
造り手の立場から見ても、その時のイメージを大切にしながらも、プライベートを覗かせないように仕上げる。たとえ、母親役や父親役であったとしても、本当に子持ちであってもそこにあるのは俳優、女優の顔であって、本物のように見せかけたその家族は擬似家族なのだ、という印象は決して損なわず、尚且つひとつの家庭として作り上げる醍醐味でもある。
今の『嶺岸 樹』に家庭の匂いは必要が無い。そんなものを植え付けるために浬を表に出した訳でもない。ただ、2人をコンセプトに作ったブランドだから二人を起用しただけのことだ。
僕は最後まで大山のその誘いを断り続けていたが、最後にその決断を下したのは他ならぬ浬本人だった。平たくいえば、パソコンでのやり取りに浬が入ってきて『いいよ、ぼくやるよ』と言ったことが発端だ。画面越しには夢妃も見ていたから、最初の挨拶も『初めまして……でいいのかな?』実際に会うのは初めてだからの挨拶だったのだろう。そんなところが妙に大人びてるとは思うものの、2歳児はどこで言葉を吸収するのかわからない。スポンジが水分を吸うようになんでも覚えていく。
『KAITO』への芸能界への誘いは白石のところにも、制作側の僕のところへも来たが、その正体を明かさず、今はクローバー社との専属契約をしている為表に出す気はない、と伝えた。
僕も次の子供の準備もある為、そちら側には力を注げない。浬も望んでない以上、まだ、当分先の話になるだろう。カエルの子はカエルできっと将来的には進む道なのかもしれないが、今はその時期ではない、と僕も思っていた。
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