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第98話
それからの樹の行動は早かった。知り合いの不動産業者に連絡を取り、これから新しく建つ分譲マンションの最上階の三部屋をぶち抜きで買い取った。7LDKSの部屋に特にリビングが広いのだが、広い風呂場と洗面所もデザイナーズでオシャレなものになっている。収納もたっぷり余裕の取れる作りだ。トイレも2箇所あり、どうしてか?と聞くと、部屋の広さや人数に応じて必要だろ?と言われた。戸建てだと1階2階にもあるんだから、という。
内装に関しても建築前ということもあり、好きなように出来た。今の部屋からもさほど遠くない位置に建築される。最寄りの駅までも割と近くなるのは子供たちの通学にも問題はなく出来そうだ。駐車場も3台分買い取った。樹が所有する車が2台、僕のが1台なんだそうだ。今、樹は2台の車を所有しているから、それは当然のことではあるが……
「子供を病院に連れていくのにも必要なことがあるかもしれないだろ?」
23区内に住んでいれば交通機関はさほど問題は無い。電車もすぐ来るし、バスの本数も多いから駅とは逆方向に向かうとしても不便はないし、タクシーを使っても病院まで、たいした距離ではない。仕事の移動に関しては距離で長かったり、公共交通機関を使うと遠回りになる場合があるので、車の方が便利な場合もあるが、都心部でのコインパーキングはなかなかいいお値段になる。よほど東京でも都下部に行かない限り、駐車場つきでの取引先などほぼない。社用車用に借りてるタワーパーキングがある会社もあるが、そこを借りれるとは限らないし、ほぼ、コインパーキングに停めるのが常だ。会社の規模にもよるが、CMを打つような会社で都下で社用車を持つ会社はそれほど多くはない。
都下部であったとしても主要駅の近くであればあるほどコインパーキングは高いところが多いから下調べをしてからでないと、いくら経費になると言っても、今後のことを考えると無駄遣いはできない。
億ションとも言えるところを一括購入した樹のポケットマネーはなかなかのものだった。売れっ子俳優とはそんなに儲かるのだろうか?
そんな時に僕の会社口座にも莫大な金額が振り込まれていた。送金主は『ホワイトクローバー社』だった。
「プロデュース料と浬くんの出演料だよ。だいたいの相場の値段で申し訳ないけど、那恵や夢妃の分もちゃんと支払い済だから、それは杉本くんと浬くんの報酬だから、那恵の方は気にしなくていいからね?」
と連絡を取ると玉妃にはそう言われた。色々な手続き等は樹の方の税理士にあれこれ頼むことにしよう。新しい家には応接間も用意されていた。一つだけ他の部屋より小さい部屋がある。そこを応接間にするらしい。それでも6畳あるのだからすごい広さだ。その隣に僕の仕事部屋その隣に僕らの寝室がある。家具にも相当なお金がかかりそうだけれど樹の趣味で統一されるらしい。そういったセンスは悪くないから良いのだけれど……子ども部屋はその都度になるだろう。子供たちの好みと樹の好みが一致するとは限らない。広いリビングに余る4つの部屋のうち3つは子供部屋になる。リビングキッチンを挟んだ反対側に子供たちの部屋と、当面は荷物置き場になるであろう部屋がある。浬の部屋は1番奥にするらしい。その隣に今、僕のお腹にいる子供の部屋を作るという。
悪阻が酷くて、今は寝込んでることも多いけれど、昼間は浬は僕の傍で静かにしていることが多い。浬と夢妃のCMは好評で、KAITOとYUMENOへのオファーは相変わらずだ。浬は子役時代の樹によく似ているから、樹の子供では?という憶測もネットの中で飛び交っていることも知っている。樹の子供、もしくは兄弟の子供か?と。
血の繋がりは完全肯定されていた。それくらい世間様から見れば似ているといえば似ているのだ。今後も僕の要素がない子供が産まれたら良いのに、とは思う。僕は冴えない男だと自分でもよくわかっている。女の子からの告白を受けたことなど1度もなかった。特殊Ωのフェロモンに惹かれて数人のαに言い寄られたことはあるけれど、全員男だ。
僕は自分の『性』が嫌いだった。嶺岸に出会うまでは。今が幸せだからこそ、そう言えるのかもしれない。
マンションの完成を待たずして、先に僕が、その2日後に大山が出産をした。
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