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第100話

僕の予想をはるかに超えたCMの反響はすごいものだった。昶を背負い、浬のお受験のための練習やら、ツヴァイの仕事をこなしているうちに引越しの日も近づいて来ていた。 世間に顔バレしてる以上、近所の幼稚園という訳にはいかなかった。それは樹の提案でもあった。幼稚園から大学まで続くα専門の学園だ。 中高は樹もそこに通っていたらしい。芸能人も多いし、金持ちしか入れないその学園は口も固い。面接の練習や、試験問題の過去問も全てパーフェクトにこなす浬は、全てを覚えて吸収しているかのようだ。オマケに僕の発情期の周期まで覚えて 「ママ、そろそろ薬を飲み始めないと……」 と言ってくる始末だ。発情期に入れば否応なしに僕は樹を求める。ただ、そこにまだ、妊娠の文字はない。次の子は何年後になるのだろうかなどと考えつつも、生後半年の昶の手が離れてから、とは考えている。そこで僕の妊娠子育て生活はストップがかかる。それ以上産んだ時の体への負担は、多分生死をかけることになるだろう。僕らの意見は3人で一致しているのだから、子供はそこまででいい。 発情期の度に僕は一生、樹を求めるだろう。僕の人生があとどれくらい残ってるのかは分からない。せめて添い遂げてみせる。 番になってしまったのだから仕方ないし、僕は樹でないとダメなようだ。それが『運命の番』なのだろう。信じていなかった。出会うと思っていなかった。だからこそ今の幸せを守りたかった。浬がいて昶がいて僕らがいる今を。 まもなく新居への引越しの準備を始めてもいる。内覧した限り、かなりの広さがあり当初に模型にしてもらった部屋どおりの上に、新築だからとても綺麗だった。 引越しのために食材などの荷物は減らしておいたが、持ち込めるものは自分たちで持ち込み大きなものや新しい家具なども同時に入れてもらった。ベビーベッドは昶に、浬には大人になるまで使えるような子供にしては大きなシングルベットだが、この家を出ていくような年齢になる頃にはちょうどいいサイズになっていることだろう。昶の部屋にはベビーベッドとモニターを設置して僕らの寝室でモニターできるようになっている。それも浬のお古になってしまうが使えるものは使いたい。備え付けの食器棚には今の量では有り余るほどのスペースがあるが、子供の成長とともにその隙間も埋まっていくのだろう、と思う。プロが使うような冷蔵庫、冷蔵庫には色んなものが保存出来る。 ディスポーザーのついたシンクには生ゴミが出ない仕様になっていて便利だが、共益費の中に含まれてるから使わないともったいない。 まさか自分がこんな高級マンションに住むことになるとは思いもよらなかった。この階には別に数部屋あるけれど、みんな芸能人のようだったから、下手な一般人は入って来れない。エレベーターもカードキーをかざさないと上がって来れない仕組みだ。最上階専用エレベーターがあるくらいだ。セキュリティはしっかりしている。もちろん、フィットネスやジム、プールなども完備されているし、来客用スペースも2階には兼ね備えている。簡単な打ち合わせくらいならそこでも出来そうだ。1階にはカフェやコンビニなども入っているから、便利なことこの上ない。タワーパーキングもあるが、うちは平面の屋根付きのスペースを3台分確保していた。樹のポケットマネーはどうなってるんだか……と思うが、売れっ子タレントの樹にとっては大した買い物ではなかったようだ。 ――今日からここが新居か…… 新しい生活に胸を膨らませ、買い換えたというキングサイズのベッドのベットメーキングだけが不安だ。以前使っていたベッドの寝心地は最高に良かったがクイーンサイズでも、十分だったのに、と思うけれど空き部屋へと移動した。そのうち誰かが使うだろう、と。半分物置化した一部屋は子供たちの部屋と同じだけの広さがある。下手なワンルームマンションより広いだろう。その部屋には学生時代から使っているパソコンを設置した。書斎の方には新しパソコン数台とサーバー、モニターは3つ並んでいる。 これは仕事用ではなく、完全な趣味専用のパソコンだ。仕事におわれてなかなか出来ていないが、以前は配信などもしていた。その時のグラフィックが収められていたり、動画用の資料なども入っている。動画サイトの広告収入目当てだったが、今でもそれは入ってきている。僕の口座にはかなりの金額が収められているが、生活費等は全て樹が出してくれているから、貯金する一方だ。それはいつか子供たちに分杯しようと思う。彼らの収入も含まれてるからだ。

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