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第104話
フラフラにはなっているけれど、何とか歩ける状態だったので、樹の運転で幼稚園、保育園と回り子供たちを迎えに行く。外に出る時は僕は未だにチョーカーはしたままだ。噛み跡を見られたくないのと、子供たちに『ママ』と呼ばれても『Ωだから』ということを無言で証明する為だ。ママ軍団達からは『浬』よりも『KAITO』の方がしっくり来るらしく、KAITOママと呼ばれているようだ。1歳になる前からCMに出ているのだ。当たり前といえば当たり前な話なのかもしれない。
「それにしてもKAITOくんは演技も上手いし、とてもクローバーの専属モデルとは思えないわね。将来が楽しみじゃないですか?モデルっていえば、クローバーのメンズのモデルの嶺岸樹を超える美形になりそうね……あら?そういえばどことなく似てるような……?」
「……あはは……よく言われます……では、車を待たせてるので、失礼します」
丁寧に頭を下げてその場を去る。姓が『嶺岸』なのだから浬=KAITOに気づくのも時間の問題だろう。KAITOの名前ばかりが先行してしまったことが良かったのか悪かったのかはわからないが、妙に最初から親がチヤホヤされるのも居心地が悪そうな気がした。夢妃も同じようなことになってるのだろうか……?
夢妃は白石の……ホワイト・クローバーの社長令嬢だから、素性はしっかりバレているだろう。
だからこそ、幼稚園に人気俳優である樹が来ようものなら騒ぎになることは間違いないだろう。1度受験の時には来ているのだが……だから面接に立ち会った先生たちは知っているはずだけど、そこはα専門の私立校だけあって口外無用となってくれているみたいだった。
ある意味、僕たちの関係は歪であるとは思う。両親が同性同士であり、かつ子供たちも計画的に誕生日が近く(夢妃と浬は同日だが)同じ外見の性別を持つもの同士だ。仕事上では互いに旧姓を名乗っているが、戸籍上、大山は白石姓だし僕は嶺岸姓だ。ただ、外見がそうであってもαとΩとβ、生殖機能の有無が絡んでいるのだから仕方がない。僕は男でありながら生殖機能は女性だし、玉妃だって女性でありながら生殖機能は男性だ。お互い、その性の持つセックスは出来るが、生殖機能は真逆だ。
Ωがいくら中出ししようが、女性やΩが妊娠は出来ない。その逆も同じだ。玉妃は女性の外見をしているが、決して妊娠することは無い。大学生時代から後輩の大山那恵にプロポーズすること十数年、やっと念願叶って玉妃のものとなった。そう考えると僕はちょろいのかもしれない……あんな短期間で躰から心まで堕とされてしまった。
「あれ?ママの甘い匂いが薄れてる……あの匂い好きなのに……」
浬が怖いことを言う。このまま成長してくれるなよ?と願う。αとΩで近親相姦がないわけではない。発情期の度に父や兄から逃げていたのは誰だ?間違いなく僕だ。この子は色々な意味で樹によく似ている。番ができても発情期に匂いをαに嗅ぎ取られてしまう僕だからこそ注意は必要だろう。
この子がその意味を知った時、僕はなんて伝えればいいのだろう……?
それよりも怖いのは拒否反応が出なかった時だ。だからこそ、有事の際に彼を拒めなかったら……?どうなるのだろう?僕らはあの家を追放されるだろうか……?でも、この子が成長した頃には僕には残されたものはない。将来、番う相手をきちんと見つけなければ。
――たとえ我が子に強姦 されたとしても……
最悪の事態も考えておかなければならない。そう思いつつもその後はすっかりそんなことは忘れてしまう。そんな場合ではなくなってしまうからだ。
浬も僕を『ママ』とは呼ばなくなる。それは昶にも伝染した。2人して僕のことを『雅さん』と呼ぶようになるからだ。
意図はわかっている。だからこそ悲しかった。そこにいるのは僕が産んだ子供ではないのだろうか?『ママ』と呼ばれなくなることが切なくて仕方なかった。
だけど僕は誓ったんだ。
『嶺岸樹』を一生愛していくと……
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