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第107話

病院から朝一に入った連絡に僕は完全に浮き足だっていた。運転が恐いと言われながらも、ステアリングについ力が入ってしまう。子供たちを保育園と幼稚園へ送った足で、そのままの勢いで病院へ向かう。 病院から朝一で受けた連絡……眠り続けていた樹に目を覚ます兆しが見えてきた、あと一歩というところらしい。この時は本当に浮き足立っていた。やっと樹が戻ってきてくれる……と。 僕が戻ってきた時、樹もこんな気持ちだったのだろうか?信号待ちすらもどかしく、祈るような気持ちでアクセルを踏み、なんとかギリギリの平常心で病院の駐車場へと滑り込む。 受付を済ませてICUへ急ぎ足で向かうと、うなされるような声と共に、樹が少し首を動かしている。笹山さんも先に到着していて、樹の様子を伺いながら、樹に声掛けをしてくれている。胃瘻(いろう)も抜かれていて顔周りのチューブはほぼない。目を覚ませば、介助は必要にはなるだろうが食事が取れるからだ。 先に到着していた笹山さんが樹に声をかけ続けるいるのを目にする。すぐに僕の存在に気付いた笹山さんがその場所を開けてくれる。 「樹?!僕だよ、雅だよ。お願い、早く目を覚まして?子供たちも毎日樹の帰りを待ってるんだ!!僕らを安心させてくれよ……」 祈るような声で、僕は樹に声をかけ続けた。 薄っすらと瞼が動き、目を覚まそうと足掻いているようにさえ見えるその姿が、もどかしくて仕方なかった。手を握り、僕は祈るように、他の患者さんの迷惑にならないように耳元で訴え続けていると僅かに開いては閉じ、開いては閉じる眸が僕の目にも映る。 ただ、樹の眸はまだ、何も映していない様子ではあったが、徐々にハッキリとしていっている様子だった。 ハッキリと眸を開いて己の状況を確認している様子だったが、ここが病院で、何故自分が寝ている状態なのか、を把握するまでに少し時間がかかっている様子だった。 「……!!樹!!良かった……目を覚ましてくれて、本当に良かった……」 その声もロクに聞こえてはいない様子だった。やっと絞り出すように出た言葉が 「……悪い……起き上がりたいんだが……」 喉に管が入っていたせいもあってか、掠れた声だったが、やっと言葉を発してくれた。 電動式ベッドのリクライニングで少しづつ樹のベッドの背もたれが上がっていく。 まだ、傷だらけの顔などは痛々しいほど、カサブタになって残っているが、起き上がってすぐに医者や看護師が質問をしているのを横目に、自分の順番が回ってくるのを永遠のような時間に感じながらも待っていた。 医者にどうぞ、と話しても良いという許可をもらって近寄った。まずは樹は笹山さんに声をかけた後に、僕を不思議そうな表情(かお)で見るなり…… 「……おまえ……誰だ?」 そう言い放った。笹山さんが色々と説明をしてくれていたが、僕の耳には2人のやり取りなどは入ってこず、何を話しているのかを頭が理解するには追いつかない状態になっていた。

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