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第126話
部屋に充満した匂いを大きく吸い込むだけで、その気になるのは十分だった。正常位の体勢から片足だけ持ち上げる形で雅を横向きにさせて、最初はゆっくりと突いてやると、グチュと音を立てて吐き出したものが溢れだしてくる。抜かなくても萎えることなく、目の前にある脇の届く範囲にキスをして舌を這わせる。
そんなものにも敏感に反応する姿が可愛くて愛しくて、この人が好きなんだな、と思う。
「はっ、あっ、はぁ、あ……好きぃ……」
潤んだ眸で訴えてくるこの人を嫌いになれるわけもない。匂いの相性も躰の相性もバッチリ合うと思うし、番なら、樹は雅と解除するつもりは無い。1度番になって捨てられたΩがどうなるかを知ってるから。だから雅は
『……僕にとっては唯一かな……』
そんな言葉を言ったのだと思う。番になったΩは相手のαしか受け付けない。αは何人のΩと番うことは出来るが、Ωは1人のαとしか番うことしか出来ない。他のαが関係を持とうとすれば良くて嘔吐、下手をすれば体調を崩してしまうし、普通のΩなら番にしかフェロモンが通用しない。普通なら。
雅のフェロモンは番になった今でも、抑制剤を飲んでいても僅かに漏れている。特に『運命の番』だから樹は強く感じたのかもしれないが、発情期じゃなくても、感じる匂いについて他のαにも確認しなくてはならないかもしれない。
番を解除されたΩは、ただただ弱っていく。放置すれば精神的にも病んでいくし、セルフネグレクトになる。はぐれΩになった人の大半は娼館で性欲処理の道具になることが多いが、どちらにしても短命になってしまう。
考え事をしてるうちに、呼吸に少し余裕が出てきたようだったから、少しペースを上げて擦り強く突いてやると、潤んだ眸でこちらを見上げる。また呼吸の速度が上がり、口唇を薄く開くと真っ赤な舌がその隙間から誘うように見える。だからその誘いに乗って吸い寄せられるようにその口唇を重ねる。
そのまま奥を激しく突いてやれば、あっという間に果てるだろう。首筋に顔を寄せて発情フェロモンを吸い込むと、雅も同じように首筋に鼻を寄せて思い切り吸い込んで、その匂いにも感じて内壁がうねって絡みついて締め付けてくる
「ほんと、オレら相性バッチリだな……」
そう言えば、雅は嬉しそうに微笑む。
――なんでこの人は……
今夜もその微笑みにも煽られて、抱き潰してしまいそうだ。
「はっ、やっ、ま……て……早っっ……」
「……でも、気持ちいいんだろ?オレも良いよ、最高に気持ちいい……」
その言葉にも嬉しそうにしてる雅は半ば意識が飛んでるとは思えないほど素直になっている。いつも寂しげに微笑む姿を見てきただけに、本当の笑みが見れるということは嬉しいことなのだが、それだけ我慢をさせている、ということにもなる。
「いぃ……あっ、ん……あぁ……おく……きもち……い……」
αが確実に妊娠をさせる本能があるように、Ωにもその本能がある。子宮に近ければ近いほど感じて受け入れる体勢ができている、ということでもあるのだろう。ただ、雅は男性器も持ち合わせているから、前立腺でも感じる。深くても浅く突いてやっても感じることが出来る。
お互いのフェロモンで再度発情しているから、また、深く繋がりながら長いオーガズムを体感しなくてはならない受け手側は大変だろうが、αだってただ吐き出すだけの瞬間的な快感が何度も訪れるわけだから都度その快感が腰に伝わるのだから、それが愛しい相手ならなおさらに繋がっていたい。
すでに全部掻き出してしまっているのではないか、と思うほど接続部からは白濁が流れ出て来て泡立っている。、
――エロ……なんかエロいわ、コレ……
「……も……ムリ……ヤっ、イク……」
「じゃ、一緒にイこうか、ほら、つかまって」
雅の腕を首に回し、両足を肩に乗せて腰を少し浮かせた体勢でより深く大きく突くように大きく腰を動かしながらその速度を上げて自分が達けるように雅の内壁で擦りあげる。
「やぁァァァァァァァァ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もう雅の嬌声は悲鳴のようでいて艶を纏っている。理性を手放して快感だけを拾い上げる躰が絶頂へと駆け上がる。樹もあと少しで吐き出せる。この幸せな時間が延々と続くと良いのに、と思うが、お互いに体力の限界もある。
「……っっ!!」
大きく息を吐き、これから30分かけて雅に精を流し込む。Ωの発情は精を受けて収まるものだから、望まない妊娠もあったりするけれど、雅は前もって準備をしている。枕元にある薬を口に入れて口移しで水と一緒に雅に飲ませる。
アフターピルだ。
今は妊娠をさせてる場合じゃない。用意をされてたのだから、雅がそう思っているのだろう。飲ませたあとは長く繋がってる間は出来る範囲でキスをしたり後戯的に感じさせて、自分が楽しんでいる。早く記憶を取り戻して『唯一無二』だと言ってあげたい気持ちと、そこに確証の持ちきれない自信のなさに臆病になっている自分とのジレンマと戦い続けなければならなかった。
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