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第129話

マサミさんが復帰の話をし、帰宅した後、30分して白石玉妃ファミリーが訪れたのだった。 「家はお初〜、お、嶺岸くん、久しぶり」 「……どうも、お久しぶりです……」 と言われても、記憶にある姿とはかなり変化が見られる目の前の女社長は、以前はもっと女性的だったが、今でもそうなのだが、雰囲気がかなり違う。なんて言うのか、豪快になった? 雅がお茶の準備をしている間に家の中を見て回る。最後に寝室のドアを開けた瞬間に白石はすぐに閉めた。振り返った玉妃は胸ぐらを掴み 「……てめぇ……!!こんなエロい匂い充満させてんじゃねぇよ。ここで発情したらお前の寝室1晩貸切にすっからな?」 換気はしたはずだが、さすがにαの鼻は誤魔化せなかった。 「白石社長は男Ωの匂いが嫌いと聞いてますけど、ウチはどうなんです?」 やっと掴んだ胸ぐらから手を離した玉妃は 「……あ、おまえ記憶ないんだっけ。あんたの番だけは特別。那恵がベッタリつけてきた時には朝まで離してやることできなかったわ」 すん、と鼻で息を吸い込むとまたこちらを見て 「……てめぇ!!試しに呼びやがったな?おまえが欲しい答えをやるよ、今、あたしでもあんたの番の匂いは感じる。発情期の終わりかけってとこだろ。でも、注意しな。あの子はいつでも垂れ流し。番がいようがなんだろうが、常にうっすら漏れ出してる。あんたと番になってから僅かに薄まったけど、特殊Ωってのは大変だね」 頭がいい上に感の鋭い人で説明や質問も何もなしに理解してくれるこの目の前の社長には一生頭が上がらないだろう。隣で子供を連れてニコニコしてるこの女性が大山那恵、本名は白石那恵、白石社長のパートナーであり、雅の仕事のパートナーでもある。二人の娘たちはうちの息子たちと同じくらいの年齢だ。 「あれ?夢妃に妃那ちゃん!!」 と浬が駆け寄る。同じ子供服のモデルである2人のスチールなどは見せてもらった。確か…… 「2人は誕生日も一緒なんだっけ?」 「そうだよ?」 「子供たちは同級にしよう、って那恵がぐずったんだよな」 「ぐずったなんて言い方しないでよ。2人で決めたの。産む方に選ぶ権利くらい欲しいわよ」 「それにしたって、同じ日に産むとはね」 とクスクス笑う玉妃は楽しそうだ。大学で一目惚れをしてからずっと口説いていた相手に念願だった子供を産ませたのだから、幸せでいっぱいだろう。白石は『運命の番』は現れない派の人間だ。だからβの女性をパートナーに選んだのだろう。どちらかと言えば2人とも女性が性的対象の人物なのだから、いいポジションに納まったと言えるだろう。 「妃那と昶くんはちょっとズレちゃったのが逆に残念だけどね。どうせなら2人とも同じ誕生日にしたかったけど、まぁ、無事に産まれてきてくれたことだけでも感謝だわ」 と大山も笑う。 「お茶の用意が出来たので、こちらへどうぞ」 と雅がリビングから呼ぶ。子供たちにはジュース、樹と玉妃にはアイスコーヒー、大山と雅はアイスティー。アイスでも少し苦味を感じるいいブレンドになってる。 「いいブレンドだね。ブラックにもってこいだ。これが嶺岸ブレンドの味ねぇ……気に入った。今度うちの現場の時にはこれ持ってきてよ」 「いいですよ?社長が気に入ってくださるならいくらでもお持ちします。あ、挽いた豆もあるのでお持ちになります?」 ニッコリ微笑む白石は無言で「よろしく」と肯定していた。 「自分で淹れないくせに、そういうとこはちゃっかりしてるよね、玉妃は」 「那恵が淹れてくれればいいじゃない。で、冷ましたのに氷を入れたらアイスコーヒー完成」 「そうですね、冷ましたら冷蔵庫で冷やしておくといいですよ?でも早めに飲んでくださいね」 コーヒー豆の袋にブレンドして挽いた豆を詰めて大山に手渡す。 「アイスコーヒー用に少し濃く出るので、ホットの時には向かないタイプなので、これからの時期、アイスで淹れることをオススメです」 「ありがとう。悪いわね」 「うちの那恵より雅くんの方が家庭的なのよね……何故か……」 ふふっと白石が笑う。お土産にもらったケーキを子供たちは頬張っている。 「というわけで、我々も仕事の話をしながらお茶を楽しむとしましょうか」 切り出したのは白石玉妃だ。

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