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第130話

「まず、嶺岸な、うちのメンズのモデルは継続してもらう。CMも打つけど、セリフなしで行く予定。その辺の企画は雅くんが完璧に作り上げてるし、うちの広報もノリノリだから心配しなくていい。事情が事情だからね。ただ、メンズオンリーのもの、レディースオンリーのもの、双方を合わせたフォーマルものが数点あるんだけど、女性側のモデルが誰になるかはまだ決まってないんだよ。今、広報の方でも交渉中。下手したら新人とか来る可能性があるから、少し長丁場を覚悟して欲しいかな」 新人を送り込まれる可能性が高い、ということを静かに織り込んできた。白石の元で仕事をするのは初めてではないし、10年前の記憶の時点でもかなり仕事を回してもらった方だ。 「……で、子供たちは子供たちの方で、雅くんが出してくれた案をそのまま採用、ということで広報サイドもすっかり雅くんを信用してるよ。キミが作るものなら間違いないだろう、って。」 「光栄ですが、現場で急遽変更が多いこともご存知じゃないですか……」 と、雅は薄く笑う。 「……浬が優秀なのはわかってるよ。妃那も昶もだいぶしっかりしてきたし、今回はドレスメインだから浬、あんたは子供用タキシードでうちの娘たちをエスコートな?」 「了解っす。どのタイプでいきます?」 「もちろんイケメンで。その容姿を100%活かせよ?世界中の女の子とマダムたちををファンにするくらいの気持ちでやれ」 「年齢層幅広すぎません?ぼく、まだ6歳っすよ?同年代ならまだしも、マダムは自信ないな」 「そこまで喋れるなら大丈夫だよ。なんせこの目の前の男もおまえくらいの時、同年代からおばさままでメロメロにしてたんだから、こいつにできてお前に出来ないわけが無い」 「なんか、オレ、酷い言われようしてません?」 樹は白石と息子の会話に苦笑いするしかない。 「本当のことなんだからしょうがないだろ。浬にはそれ以上を求めても、期待に応えてくれるのがあの子だよ。演者の目線も制作側の視点も持ってるんだから、大したもんだよ」 自分と雅の良い部分だけ受け継いだ上にαだから、よりよく周りが見えて頭の回転が早い、ということか。 「雅くんの方にも凄いらしいけど、うちの方にも浬の芸能界へのお誘いのコールは半端ない。浬は知ってる?」 「まぁ、なんとなく。でも雅さんのいないとこで仕事する気ないんで。」 「相変わらずママ大好きは変わらないのかよ。」 「そりゃあ、そうでしょ。この人の体質考えてくださいよ。‪」 ケラケラと玉妃が笑う。 「まぁ、うちの娘たちもだけどな。」 「そんなに早く親離れされても寂しいじゃない」 「雅くん、次はいつ作れそ?」 その質問に顔を真っ赤にして口を数回パクパクさせていたけれど、答えなければならないと思ったのか、フーっと息を吐くと 「……まだ、話してないです……」 「那恵もそろそろ高齢出産の年齢に入っちゃうからさ、那恵はどうしても一緒がいいって聞かないし」 「まぁ、現場と企画を分けてくれたおかげで、テレワーク中心にしてもらえてるから、現場に出ることも無くなりましたけど、子供服の方だけはモデルも含めて融通が聞きやすいのは確かですから確かにやりやすいですね」 子供服の現場には双方の母親がプロデュース兼付き添いで現場入りする。 樹はマネージャーの笹山マサミと撮影スタッフは大きくは変わらないが、企画提案者である雅と大山が入るかどうかはタイミング次第、と言ったところだろう。新人を放り込まれて長丁場になれば各自の家庭のことも出てきてしまう。 αが来るのか、βが来るのか、Ωが来るのかすらわからないのだ。なるべくなら個人的にはΩは避けたい。ある程度の年代になってくると、自分はΩだからと言い寄ってくる女はいた。発情期に用もないのに、強制的に引きずろうとした女もいた。既成事実に、妊娠を狙ってた女もいたかもしれない。 αにとって『番』は1人限定では無いから、まだ誘いがないとは言いきれないが、記憶にあるΩの匂いに、“この人の匂いが好き”と思えたのが雅だけだったのだから、他には興味がない。 だからと言って抑制剤も飲まずにその匂いに引きずられて関係を持つような真似もしたくなかった。男Ω嫌いの玉妃ですら雅の匂いは嫌いじゃないし、パートナーがべったりつけてきた時には発情したと言っていた。 ――ん?べったりつけてきた…………? 何かが引っかかった。

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