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第133話

「ちょっと、茶化すのやめて、玉妃。本当にあたしが悪いんだから……杉本が入院してることは社長命令で社外秘でもあったから言わなかったのはあたしの方だし、あの結果を招いたのもあたしが原因なんだから。 『あんたのとこの会社の方針はなんだったっけ?『Ωが働きやすい環境で、いざと言う時にはΩを危険に晒さない為に矢面に立つβ』だったよな?あんたは雅を守る立場じゃなかったのかよ?雅を見つけた時、雅はあんたになんて言った?どーせ雅のことだ『大山さんの所為じゃない』とでも言ったんじゃないか?あんたの方が先輩だったよな?後輩に気を遣われてんじゃねーよ……で結果がこれだ』 みたいな感じで言われた時にあたしは返す言葉がなかった。でも、やっと……あたしを責めてくれる人が現れた……だから頭を下げました。泣くつもりはなかったけど、あたしも情けないやら悔しいやら……」 「……てか、そんなことを聞いてくるってことはなんか思い出したってこと?」 「奥方の話だと断片が見えた……って感じかな。うっすらとそんなことがあった、っていう程度だけど、酷いことを言ったみたいで……オレも申し訳ない。貴女を責めても筋違いだ……」 その言葉に那恵は頭を大きく横に振る。 「最初に言いました。あたしの油断が招いた事態だったんです。嶺岸さんがいらした時には……あれもあたしの勝手な判断でした……でも、どんな形になろうとあたしはアイツを守りたかった……失うことが怖かった……いなくなることなんて考えられなくて……」 ガクガクと震えだした躰を玉妃が抱きしめる。 「……申し訳ないね、ウチのからは言いづらいと思うから、また補足するわ。雅くんはその時のレイプで妊娠した。けどね、リスクが大きすぎたんだ。どちらかの命を選べと医者に言われた。戸惑う彼の母親を押しのけて那恵は雅くんを選んだ。それが理由で毎回の出産がある意味命懸けになるけど、先々になって子供が出来ない躰を嘆くかもしれない、でも、あたしも那恵も雅くんの命を最優先にしたんだ。」 2人の気持ちに感謝の言葉しか出てこない。 「……本当に……ありがとうございます……」 そこで雅を選ばない選択肢は樹にもなかった。けれど、2人の子宝に恵まれている。自分には跡取りを作らなくてはならない理由はないし、『運命の番』に子供が出来なくても問題はなかった。家業を継いだ兄たちにαの子供はいたし、跡継ぎ候補はいたから自分は身軽ではあった。それは今でも変わらないと思っている。子供たちもモデルの仕事をしてるけれど、芸能界に興味があるわけではない。 跡取りとして誰を選ぶかは親世代が決める。浬も昶も候補になるはずだ。浬はαだし、次の健診で昶もバース性はαと出るだろう。 αの周りはαが集まりやすいから、多いように見えるが、人口の9割はβが占めている。1番人口の少ないΩの周りにはαが集まりやすい。それは発情期のフェロモンの所為もあるが、早いうちにαに目をつけられて囲われることが多いからとも言える。雅や玉妃の秘書のような男性Ωは珍しいタイプと言えるだろう。 「そういえば社長のとこのΩ秘書くんは番は見つかったんですか?」 「……今、アレの話を出すのか?……」 本気で嫌な顔をする。 「アレはもう行き遅れだ。親戚だからって使ってたけど、仕事を詰め込んだってわけじゃないのに、特定の相手を作らなければ子供だって作らない。必要ないなら(くさ)いから、あいつから発情期を取り除ければ良いのに……」 そう言って舌打ちをする。 「社長はΩのフェロモンの影響を受けたことはあるんですか?男性Ωの匂いが嫌いなのは存じてますが、他の女性Ωとか……」 「あたしがΩのフェロモンで発情したのはあんたの番の匂いだけだよ?那恵がベッタリと匂いをつけて来た時だね。あ〜、あと危なかったのはさっきのあんたの寝室。雅くんの躰に興味はないけど、匂いは好きだよ。那恵なんて雅くんの匂いの香水が欲しいとまで言ってるからね。 あたしらは雅くんの匂いは好きなんだよ。だからあんな匂いがプンプンしてる部屋の匂いを思いっきり吸ってみろ、1晩あの寝室を乗っ取って那恵が限界超えても犯す自信しかない!!」 いくら子供たちが別室だからと堂々と言われては返す言葉も見つからないし、大山も顔を押さえて俯いている。耳まで赤くなっているということは顔は真っ赤になってることだろう。 「……玉妃には、もう少し恥じらいってものを覚えてもらいたい……」 「恥じらいも何も無いだろ、お互いに計画的に子供作ってんだから。やることは一緒だろ」 「……そういうことじゃない……」 那恵にとっては、樹が異性だ、という部分が大きいのだろう、と思うが苦笑いするしかしてやれなかった。

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