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第134話

応接間に3人が入って30分くらい経過しただろうか。子供たちのケーキのお皿も空になり、お腹がパンパンで満足、という顔をした4人の子供たちは見ていて本当に可愛い。 「妃那ちゃん、お口拭こうね。昶はその次だから待っててね」 「んっっ」 と顔を出した妃那の顔をおしぼりで口の周りを拭いて、手も一緒に拭いてあげると、妃那が抱きついてくる。 「あきらママ、いーにおい〜。すき〜」 「ありがと。次、昶拭くから少し後ろに回っててね」 昶も「ん」と顔を出しクリームで汚れた顔を拭く。手のひらも拭いてあげて妃那と同じように匂いを嗅ぐけれど、 「いつもとおなじにおい」 と言うだけだった。自分たちで手や口周りを拭けている上の子達も妃那と同じように鼻を近付けて匂いを嗅いでいる。 「ふーん、Ωの匂いってこういう感じなのね」 「この人は特別。番がいるのにαに匂いがバレるってかなりやばいことなんだよ?」 「周りにΩが雅さんしかいないから、そういうものだと思ってたけど、送迎の時のママさんたちでもチョーカーしてる人は多いわよね。でも匂いを感じたことは確かにない……」 「はいはい、僕は確かに特殊体質だからね。でも、妃那ちゃんも昶も匂いを感じるってことは今度の健診で2人ともαって言われるね」 どうも話の方向性が良くない方に向いてる気がしてならない。αばかりが集まってる中にΩが1人。親子ではあるものの、αとΩの発情に血縁関係は関係ない。 Ωの発情期に当てられてしまえば、αはその本能には抗えなくなる。躰の関係さえ結ばなければ、逃げ切れば……母の協力の元、逃げ切った学生時代。部屋の内鍵まで設置しなければ特に兄の執着は怖いくらいだった。 「あきらママ、だっこ〜!!」 の声に顔を上げると妃那が手を伸ばしていた。ママを取られるのは不満なのか、昶も抱きついてきたので2人を片方ずつの手で抱えると2人の顔が肩に乗る。首元に2人の息がかかってくすぐったい。襟足の方からは夢妃と浬が匂いを嗅いでいて、どういう状況?になっている。 応接間から出てきた樹たちが呆然とその光景を見つめているが、子供たちも雅も背中を向けていて気付いていない。玉妃も唖然と見てる。那恵(ママ)にベッタリだった娘たちがΩの匂いに酔いしれている。すでにΩの匂いに惹き付けられる幼い子供たちは一見可愛らしい姿だが、これがもう少し成長していたとしたら、とてもじゃないが、微笑ましい光景ではなくなる。 確かに玉妃も那恵も雅の匂いは好きだけれど、通常、番のいるΩの匂いは他のαが感じ取れるものではない。雅の体質は確かに特殊だからこそ、それに慣れさせてはいけない気がしてきた。 「夢妃〜、妃那〜、離れなさ〜い?」 那恵が呼ぶと夢妃は直ぐに離れたが、妃那は離れる気配がなく 「いや〜!!いいにおいなの〜」 「それは知ってるけどね?妃那がずっとくっついてたら、動けないでしょ?」 浬も1歩下がり、昶も膝から降りた。妃那も一度すんっと匂いを吸い込んでから雅の頬にチュッっとキスをして渋々膝から降りた。 「またこんども、だっこしてね」 そう言って雅の元を離れた娘を見て、玉妃も度肝を抜かれた、と言った表情をしていた。背後に立っていた樹に向かって 「……あんたの番は魔性かよ……」 絞り出せた言葉がそれだけだった。 さすがに若干3歳児を誑かすつもりなど雅には全くないだろう。『魔性』と言われてしまえば白石の家族は揃って雅の匂いが好き、という強い血筋はあるようだが、両親からしたら雅は恋愛対象外であるし、娘たちもそうであって欲しい。妃那も間違いなく‪α‬だということは確証された。昶も妃那と同じように首筋にへばりついていたということは、‪α‬性がさせていたことでもあると思う。後ろのふたりはわざとだ。 「そうだ!お夕飯食べてきます?大人は簡単なパスタで子供たちはミートソースとおうどんどっちがいい?」 『ミートソース』 と口を揃えて言うものだから、全員パスタというのとになった。前菜のサラダを準備してあったので、サラダをテーブルに置き、取り皿を置いて大山に取り分けを任せた。 「玉妃さん、大山さんは何味にしますか?」 「しめじのバター醤油。玉妃も同じで」 なんの躊躇もなく大山は即答する。 「樹も同じで大丈夫?」 「雅が作るものならなんでも」 「……ちっ……バカップルめ……」 玉妃が先程の不機嫌を引きずったまま、舌打ちをしながら吐き捨てる。那恵はすみません、と頭を下げながら玉妃に補足を入れる。さっきとは全く逆の光景に樹は、夫婦だな、と思った。 「ちょっ、ちょっと玉妃!!それは違うでしょ?作る方の手間も考えなよ。あたしがハマってるやつでお願いしたんだから玉妃も絶対に美味しいって思うから!それにアイツのパスタ美味しいから。玉妃も絶対にハマると思うけど、あたしは同じ味は出せないことだけ先に伝えとくね」 子供達の分を先にとりわけ、コーンを乗せて渡す。大人の分も取り分けて目の前に置いていく。子供たちも食べやすいごまドレッシングをかけてフォークでモグモグと食べ始める姿は可愛い。樹、玉妃、今は離席してる雅の分と自分の分、と分けて空いた大皿を持ってキッチンへ向かう。シンクに大皿を置き 「お皿はどれを出せばいい?」 「あ、そこの2段目の……うん、それ!それが子供たち用で、その下の段の少し大きめのお皿が大人用、出してくれてありがとう」 そう言って雅は微笑む。 冷凍のミートソースを解凍して鍋で温めながら、大きなパスタ鍋でパスタを茹でていた。

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