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第135話

「…………!!これは美味い……」 玉妃が驚きの声を上げる。 「ミートソースも美味しいよ。玉妃ママも食べてみて?」 夢妃がフォークに巻きつけたパスタを玉妃の口元に手を伸ばす。それを咀嚼しながら夢妃に頷く。白石家のお口にあったようだ。 「このミートソースもお手製?」 「えぇ、母に教えてもらって。実家の味ですね。母が料理上手なので教えてもらいました。」 ニッコリと微笑む雅を見て 「……いいなぁ……」 妃那がボソッとつぶやく。‪α‬として色々と目覚めてしまった幼い娘に玉妃の落ち着きがなくなる。まだバース性を告げられた訳ではないのに‪初めて感じるΩの匂いにまだ酔いしれてる。 「……うちの娘たちまで誘惑しないでくれる?」 「したつもりは無いんですけどね……?、ってどういうことです?」 「那恵もあたしもあんたの匂いは好きな方なんだよ。基本的にあたしは男Ωの匂いは苦手でね、どちらかと言えば嫌悪感があるくらい。だからって女Ωの匂いが好きか、って聞かれても好きな匂いに当たったことはないし、引きづられた経験もないんだよ。唯一あるのがキミの匂いをベッタリつけてきた那恵がうちに来た時だ」 その話はさっき樹も聞いたから知っている話ではあるが、雅はその笑顔を少し曇らせた。 「キミに拒否反応が出るか分からないけど、万が一、ヒートを目の前で起こされたら、あたしはその(さが)に逆らえる気がしない。お互いに気をつければ済むことだけど……」 正直に話してくれることはすごく助かる話だし、玉妃と間違いがあってはならない。それはβの那恵にはわからない話でもあるからこそだ。 「しかし、面倒くさい体質だな。番がいるのに他の‪α‬を誘惑するってのは。本人が一番辛いっていうのはわかってるよ。どっちの遺伝?」 「父方の祖母がΩです。母方はβの家系なので」 「お祖母様も特殊?」 「いえ、祖母は普通の薬が効くΩです。」 ヒートが起きてから薬が効く効かないでは大きな違いが生じる。薬が効くΩであるなら普通の生活ができるくらいに薬の発展は目覚しい。けれど、薬の効果が切れればαを求める。 継続的に使わなければ、その精を注いでもらわないと躰の奥から焼けるような欲情を抑えることが出来ない。αとΩが交われば、確実に妊娠をさせる為の種付けのセックスになる。日頃からピルを飲み、アフターピルまで飲むのは避妊の1つだ。Ωのヒートの熱を冷ます為には精液が必要になる。コンドームを使ってしまってはΩの熱は引かない。 本当に繁殖の為の性だ、と思う。番を作ってしまえば、その番としか交われないけれど、妊娠しやすくなる。αは何人とでも番えるのにΩは1人だけ。番を解除されたり繁殖用に使われたΩは短命だ。だからこそ、玉妃は姉妹の中で唯一のΩの姉を心配しているが、αの男児を出産したものの、無理やり番にしたくせに跡継ぎが産まれた途端に番を解除され、想い人の関連する娼館でその人を待ちながら、他のαにも身を任せる、という日々を過ごしている。 身請けしたくても本人が拒否していることと、そこの支配人と白石家は相性が悪い。那恵が唯一相手をした男であり、Ωと偽ったαで酷く抱かれることを好む変わったαだ。身長こそαだからΩの雅より高いが顔はよく似ていた。 姉の初めての発情期の匂いを間近で嗅いだ時でさえ、αの本能はピクリとも動かなかった。他の姉達はヤバい、と逃げた。もしかしたら自分はαとしては欠陥してるのでは?と思ったけれど、生殖機能には全く問題はなかった。 初めてΩの匂いでヒートに入ったのは、想い人が仕事での相棒の匂いをベッタリとつけたまま、心身困憊状態で現れた時だ。 思考を放棄したい那恵と、抗えない欲情にヒート状態になった玉妃の本能が合致した。 αとして欠陥があった訳ではなかったが、Ωには全く興味はなかった。 初めてΩが怖いと感じた瞬間でもあった。

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