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第136話

「みやびママ、だっこして?」 昶が口に出して言うのは珍しい。昼間の妃那の態度がヤキモチのような形になって言わせているのだろう。抱き上げると首に手を回してスリスリと頭を擦りつけてくる。 「みやびママはどうしてあまい匂いがするの?妃那ちゃんがちょーだいっていうの、なんで?」 玉妃が聞いたら悲鳴をあげそうだ。 「昶にも甘い匂いって感じるの?」 「うん。あまくていいにおい。でもいつもとおなじにおい。おかしとはちがうけど、あまくて食べてみたらおいしいかもしれないにおい」 ーーそれはそれで危険な発想だ…… 我が子ながら身の危険を感じてしまいそうな答えにαとΩの違いを見せつけられる気分だ。 常に身の回りにはαはいた。父、兄、樹、そしてツヴァイの社長もαだ。 Ωに寄り添ってくれる社風にはとても感謝している。だからこそ、自分の事件は社長も心を痛めたことだろう。だからこそ、新たに現場専属の部署に被害に遭わないαとβのペアで回ってくれているのだろう。 発情期のフェロモンにあたった際に抑制剤を飲ませて抑えるのがβの役目なのだという。演者にΩがいないわけではない。バース性もスタッフもいる中で、自分の身内を抑えるのが最優先になるになるだろうからの対応だ。 他のΩママたちも似たような悩みがあるのだろうか?通常のΩであればたぶん、こんな会話はないのだろう、と思う。はしゃいでいたのもあり抱っこしながらトントンと背中を叩いてると昶はウトウトし始めて、疲れたんだな、と微笑ましく見てると、そのまま熟睡するまでそれほどの時間はかからなかった。昶をベッドに寝かせて浬を見に行くと 「ぼくも昶みたいにトントンして?」 と言うのでトントンと胸の下あたりをしてやるとすぅ、と寝息を立てた。兄弟でもちょっとしたヤキモチみたいなものがあるのだろうか? 浬は上の子だから我慢をしてる部分もあるだろう。昶の方がまだ手がかかるから仕方ないにしても、愛情の偏りは良くないな、と反省するべきところだ。 寝室へ向かうと樹はバスローブ姿で本を読んでいた。部屋に入っても昼間に濃い匂いがした、と言う玉妃の言葉が気になって部屋の匂いを嗅ぐけれど、朝のうちに換気はしていたし、シーツも交換したから自分には特にこれ、という匂いは感じない。 「どうした?」 「昼間の玉妃さんの言葉が気になって……そんなに匂いが残ってるのかな?って。」 「自分の匂いは嗅ぎなれているからどうなんだろうな。今の雅はだんだん濃くなってきてるよ」 「本当に効果が長続きしないんですよね……」 「相手がオレなら問題ないだろ?」 「それはそうなんですけど……」 「ほら、早くおいで。子供たちばかり抱きしめてないで、ここからはオレの時間」 「うちのαたちは独占欲がすごそうですね。昶も食べたら美味しそうな匂いって言ってました。あぁ、αなんだな、って思いましたよ」 「……それは怖い発言だな。昶にママは食べ物じゃありません、って教えないとな。」 少し可笑しそうに樹が笑う。美味しそうな匂い、というのは、αがΩに対して1度は思うことなのだろうか?樹がそのタイプだったとは想像出来ない。 「もう昶の歳の頃にはオレは仕事してたからな。Ωと一緒になることはあったけど、美味しそう、と思ったことはないし、その匂いに魅力を感じたこともなかった。だからこそ憧れたんだろうな『運命の番』に。」 αとΩでしか成立しない、番という見えない鎖で繋がれたようなこの状況が雅も嫌いではなかった。Ωだからこそ、その『唯一』になる相手は大切になる存在であって欲しかったし。 「不思議ですよね、人口の大半はβだから、αでも玉妃さんや父のようにβに『運命』を感じて結婚してるし、本当にどこにどんな出会いがあるのかなんて誰にも分からないのに不思議ですよね。」 「そうだな、オレも雅と出会ってなかったら子供がいる生活なんてしてなかったかもしれない。確かプレゼンにうちの事務所に来たんだっけ?」 「そうですよ。最初こそ仕事で参加してなかったけど、途中参加で。終わってからもずっと部屋の隅にいて、どうしたんだろ?って大山さんとこっそり話してて、あの頃はテレビで見る大物イケメン俳優としか認識してなかったから、一緒に仕事ってなっても、すごく緊張してたなぁ……」 雅も思い出してクスクスと笑ってしまう。 「その時話したの、一言だけですよ?撮影の日には来るのか?って。それを確認するために20分くらい僕らの片付けみてたかな」 「ただ突っ立って?」 「そう。どう切り出すか躊躇ってたのかな?って今になって思うとそんな感じ。」 「その時には匂いが気になってたんだろうな。オレも入院してた時、眠ってた状態でも雅の匂いを感じてたよ。いい匂いがするって。番だからなのかどうのかはわからないけど、現れては去ってく匂いを感じてたのに、目覚めた時のあの言葉は……本当に申し訳ないと思ってる」 思い出したように告げたその言葉に雅は目を丸くしてる。今更な言葉だとわかっていても、謝らずにはいられなかった。 「……確かにあの瞬間は何が起きたのか、理解するのに時間はかかりました。でも、記憶が抜け落ちちゃってたんだから仕方ないです……」 そう言いながらも少し寂しそうな表情をする。 口唇に軽くキスをして話を切替える。 「……匂いが強くなってきてもう、抱きたくて仕方ないんだけど?もう勃って来ちゃった」 太ももに押し付けられたのは固く大きくなっている樹の…… 首に腕を回してそれに応えるキスをする。 「そんなことされたら……僕だって……」 キスが深くなる。もう、言葉で話すより躰で感じあって、愛し合いたい。雅のフェロモンも濃くなって、樹からもフェロモンが溢れ出す。 完全に2人揃って発情状態になって、貪るように躰を繋げた。

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