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第143話
「あのさ、本来なら嶺岸の実年齢の役者はここでは使わないんだよ。コイツ外見は年取らない化け物で、髪型でどうにでもなる珍しいタイプだから、こっちのシリーズも使ってんの。本来ならもっと若手を使うけど、うちのメインでずっとやってもらってて、見た目も使えるから今ここで撮影してんの。
中高生から大学生を対象にした初々しいカップルを売りにしてんのに、どんなキスさせる気だよ?コイツは根っからの役者だから、それに応えられることは出来るだろうよ。それにCMでそんなん流したら親からクレーム来るわ!!
で?どんな風にキスさせようとしたの?軽く?それとも恋人らしく舌を絡めたエロいキス?」
言い出したスタッフもノリもあったのだろうが、そこまでは考えてなかったらしくて口篭り、上手く言葉を繋げずにいる。
「で、ディープキスをしたと仮定しよう。お相手のΩくんが、万が一、それで発情したらどーすんの?まさか嶺岸に抱いてこいって言うつもりじゃないだろうね?それとも考え無し?」
さらに追い打ちをかける。オロオロしているスタッフに対して、川嶋が口を挟んできた
「僕は嶺岸さんのファンでこの業界に入りました。さっき抱き合った時に、嶺岸さんの首元の匂いに『運命』を感じたんです!!……別にαが番えるのだって1人ではないでしょう?」
「……盛大な告白、ありがとう。でもさ、人の話聞いてたかな?この企画に嶺岸のパートナーも噛んでるんだよ。その相手目の前に同じこと言える?自分が逆の立場で言われたらどう思うよ?よく考えてから発言はした方がいい。
それに、あたしは発情したΩの匂いが嫌いとも伝えてるはずだ。まだ撮影は始まったばかりで、撮影日にパートナーが顔を出したと思ったら、別のΩ抱いてるなんて状況になってみろ、あの子、今度こそどうなるかわかんないよ?
『特殊Ω』って伝えたはずだ。嶺岸、あんたの求めてるΩの条件、教えてやんな。」
「なんで、こんな大勢の前でそんなこと教えなきゃいけないんですか?まぁ、いいですけど」
樹は1呼吸置いてから
「『オレは生涯たった1人の『唯一無二』の存在の相手しか必要が無い。出会えなかったら生涯1人でいい』そう思ってますよ。」
文句を言いながらもその言葉を舌に乗せる。
「わかった?他人の家庭を壊すようなことは二度と言わない方がいい。ここん家のパートナーにうちも仕事切られんの困るんだわ。この業界に身を置いてるのに汚い世界をほぼほぼ知らない純粋な子なんだよ。
それに抑制剤は用意してる、とは言ったけど、アフターピルまで準備はしてない。そういったことを事前で防ぐ為だ。ここは合コンでもお見合いパーティーの会場でもねぇんだよ。仕事に来てるってこと、分かる?」
「……わかってます……でも本当に『運命』を感じたんです!!僕は嶺岸さんしか……」
「嶺岸は感じてんの?『運命』」
「いいえ?全く。それに感じてる匂いってのも雅が言ってたのと違うので、Ωによって感じる匂いが違うなんてことあるのか、考えてたとこです。オレの匂い、爽やかで甘いらしいですよ?」
「変わんねぇだろうな。それにこいつのは甘いと表現するのは違うな。甘いのはパートナーの方だ。情報を利用されるのは面白くないから言わないけど、こいつん家に行った時に事故で匂いを知ったけど、こいつの匂いは甘くない。」
「事故って……あれは不可抗力です。」
樹が苦笑いをする。
「あぶねぇんだよ、あの部屋は!!あれで換気してるって言うなら部屋全部が淫靡なんだよ。」
「あれはただの寝室です。ベッドとサイドテーブルと小型冷蔵庫があるだけの部屋ですよ?」
にっこり微笑む樹と雅の匂いに弱い玉妃との言い争いには決着はつきそうにない。
「とりあえず今はうちの寝室の話は置いときましょ。あの部屋でオレらは毎晩寝てるので」
微笑んだまま、話を戻せ、と促した。
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