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第144話

「あたしはΩの匂いは嫌いだが、嶺岸のとこのパートナーの匂いにだけは弱いんだよ。だからって寝取ろうなんて思ってもないし、仕事面で世話になってるし、胃袋掴まれてるし……とにかく、信頼してるんだよ」 「……!!すみません、席を外してる間に何かありましたでしょうか?」 川嶋のマネージャーの葉瀬が現れる。白石は遠慮なくマネージャーに向かって 「撮影はパートナー探しの場では無いって話よ。スタッフが悪ノリでキスをさせようとか言い出したら、そちらのタレントさんが乗り気になったってだけの話です。 10代がコンセプトのCMでそんなことをしたらクレームになりかねないので、こちらで却下したんですけどね…… 嶺岸に『運命』感じちゃったそうですけど、嶺岸は特に何も感じてないそうで、若いんだからもっと世の中を見た方がいい。 『運命』感じてもらっても、うちの制作に嶺岸のパートナーがいますし、こちらとしてもそちらに手を引かれたら困りますので、トラブルになる前に話をつけたいと思いまして。」 マネージャーも驚いた表情をしていた。 「だってαは何人とでも番えるのに1人だけなんて、もったいないじゃないですか!要は相手にバレなきゃいいだけの話ですよね?」 「悠真!!やめなさい!!嶺岸さん申し訳ございません。白石社長、大変失礼致しました。嶺岸さん、その後、番の方はお元気になられたんですか?」 「……えぇ、おかげさまで。今は2人の子育てに追われてますし、白石社長のところのお嬢さんたちと子供服の方の撮影もありますので、近々顔を出すと思います。そろそろ仕事の方にシフトチェンジしてくださると嬉しいんですけど?」 やんわりと仕事モードに切りかえてくれと伝えると、スタッフサイドはスチールチェックに入るから、こちらサイドは休憩となった。 白石もチェックに入っている。次々映し出されるモニターを見つめていると、マサミさんが大きめの水筒と紙コップを並べて、水筒の中身を注いで1つは樹、1つは白石に渡される。 「やだぁ〜、嶺岸ブレンドのアイスコーヒーじゃない!!マサミさんありがと!!」 「白石社長!!紛らわしいので、その呼び方やめてくださーい。オレがブレンドしたみたいじゃないですか。オレ好みなだけでーす!!」 普段と違う髪型、衣装……20歳だけど高校生くらいに見える川嶋と大学生のような風貌の自分に酷く違和感を覚える。ちゃんと恋人同士に見えているのか、客観的にスチールの確認をしていく。指先の位置までの違和感を探していく。完璧なポージングでなければ、拡大された時にみっともなく見える。訂正するなら衣装を着てる今だ。1枚1枚をチェックしていく。 少し濃く苦味強めのアイスコーヒーを飲みながら、この味を出すまでどれくらい試行錯誤したのだろう……?と雅の献身ぶりを改めて思う。 「本当に、雅さんのコーヒー、美味しいわよね。」 「えぇ、オレ好みですね。てか、コーヒーの好みは一緒でしたね。てか、どうです?若作り」 「嫌味なほど似合ってるから、最初は気づけない人多いかもしれないわよ?復帰第一弾から話題になりそうね。雅さんにも写メ送ってみましょうか?びっくりすると思うわよ?」 「髪型とメイクって凄いですね。ちょっと反応気になるかも……」 雅の感想を聞いてみたいとは思った。帰る頃にはメイクも髪型も戻して帰るから正直聞いてみたかった。マサミさんは簡単に写メを撮りそのまま雅に送信をして返信を待つ。 「それだけじゃないわ、あなたが実年齢より若く見えるのも大きいと思うのよ。」 「白石社長にも言われました。老けない化け物だって。いつもミニチュア見てるから十分大人になってると思うんですけどね。」 クックックッと静かに笑ってしまう。さすがに化け物と言われたことの記憶はない。毎日のように自分の幻影を見てるだけに、年齢は重ねたと思う。浬の年頃はどんなことを考えていただろうか?あの頃も子供服のモデルはやっていたし、デビューもCMだったはずだ。その当時の記憶はさすがにない。マネージャーも物心つく頃にはマサミさんの母親だった。 マサミさんもまだそれなりに小さい頃だったから、よく一緒に行動していた。その分、母親から色んなものを吸収して、今のマネージメントに活かされている。 マサミさんのお母さんも引退してからは、体調を崩して自宅で療養している。実母より年上だった彼女は、今では隠居生活でマサミさんの兄弟と今は生活していた。彼女のつくりあげた伝手は今のマサミさんに上手に引き継がれていた。

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