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第146話
「びっくりした!!本当に樹?めちゃくちゃ大学生みたい!!(^_^)本当に役者さんってすごいね!!明日には1度顔を出す予定だから玉妃さんにもよろしく伝えてください。お仕事頑張ってね|•'-'•)و」
雅からの返信は簡潔でも、ちゃっかり連絡事項まで入っているのはさすがだ。
「可愛い返信してくるのね」
マサミさんがクスクス笑う。
「雅が気に入ってくれたなら、大丈夫でしょう」
「あら、惚気?」
「あっちもプロですよ?どれだけ現場回ってきたと思ってます?今でこそテレワークだけど、ツヴァイの方の企画書だって出して、こっちの企画まで上げてるんですよ?出来上がったものもちゃんとチェックしてるんですから。
それに社長へのアポ連絡もしっかり入ってますよ?オレたちしっかり使われましたよ?」
笑いながらマサミさんにそれも伝える「あらヤダ本当」と笑っていた。
企画の段階で、色んな代理店の企画書の中から選ばれるのは1社だ。気に入られれば継続されるし、ダメなら入札をし直す。雅の企画書は比較的継続率が高い分、仕事を短期集中でこなしているし、キッチンに立つ時は知らない曲ばかりを聞いている。
CMに起用するアーティストを選んでるのだ。1分も無駄にしない動きで雅の仕事部屋には整理しきれないサンプルCDが積まれている。最近はパソコンのデータで送られてくることが多いようだが、曲から閃 くこともあるらしい。
同じ業界にいるのに、樹は表側、雅は裏側の仕事をしている。演じる側、作る側が遠慮なく意見を出し合える、というのも貴重だと思った。
メールを見てそのまま玉妃に近づき
「白石社長、明日雅は顔見せに来るって言ってますけど?たぶん子供服以外では現場久しぶりになると思うんですけど、那恵さんもいらっしゃいます?」
「明日ね、子供服の方はまだだからこっちサイドの撮影を見に来るのかもね。雅くんが来るなら那恵も来るんじゃない?」
すぐにスマホで電話をかける。
「那恵?明日雅くん、撮影に来るらしいけど聞いてる?……うん、あ、そうなの。先に知らせてくんない?…そんなの決まってるでしょ。その方がスタッフにプレッシャーかけれんじゃん。」
この人らしい会話に笑いを堪えるのが大変だ。
「人の電話で笑ってんじゃねぇよ。誤魔化せてないかんな?肩震えてんだよ。」
「スタッフに圧力かけてどうするんですよ。」
「今日みたいなアホな話が出たら、今度は那恵が戦ってくれるじゃん。まぁ、雅くん相手にケンカ売るような人がいたら、みんなを敵に回すでしょうね。最強のボディーガードは明日は来ないんでしょ?」
「学校がありますからね。社長の中では最強のボディガードだと思われてるんですか?アレは。」
「『雅さんの役に立たない仕事はしません』って言う時のあのクールな視線がいいね。αが近づくと威嚇するんだから、最強だろ。」
「社長には威嚇してないと思いますけど?」
「あたしにはしてこないけど、あんたは威嚇されてんじゃん。似たもの父子だよね、本当に。」
「似てることは認めますけど、子供の頃、はあんなキャラじゃなかったですよ?オレ。」
「あんたは親離れが早かったんだろ?」
そう言われれば、そうかもしれない。乳幼児の頃こそ母は付き添ってたけれど、体調を崩してからはマサミさんの母親にそれが移っていたし、まだ小さい頃に実母は他界してしまったのだから仕方ない。
父は仕事人間だったし、兄たちも少し歳が離れてたのもあり、父の仕事に興味を持つのも早かったが、自分はすでに芸能界にいたから、家族の接点もそれほどなかったかもしれない。
それでも高校卒業までは実家で生活していた。大学に上がる頃から一人暮らしを始めた。実家を特定された、というのもあったし、どうしても時間が不規則な業界柄朝起きて夕方帰ってくるサラリーマンとは違うのだから仕方ないことだが、そのすれ違いだらけの生活ならいっそ大学の近くに部屋を借りて住んだ方がいい、と思ったのがきっかけだった。
家バレしても近所には迷惑をかけるが、家族にまでは迷惑は行かない。けれど、近所だから、同じマンションだから迷惑をかけていいことにはならないから、その辺は十分に注意はしていた。
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