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第147話

大きな給水器に焼き菓子持参で 翌日登場したのは仕事上の名前で、CMの企画書を出した大山、杉本ペアだ。 「スチールとCMの撮影を見学させていただきます。イメージと違うと思ったら、即訂正を出させて頂きますのでよろしくお願いします。」 スタッフ、出演者の人数をあらかじめ聞いておいたので、誰も受け取り漏れがないように可愛らしいビニールの包みに5枚ずつ入ったクッキーを配りつつ、給水器の中には少し苦めのアイスコーヒーが入ってるので、飲みたい方はどうぞ、と伝えると玉妃は 「あたしが4〜5回飲めるくらいにはしておけよ?ガバガバ飲まないように。」 そういう玉妃がいちばん飲みそうだ。 先に女性側のCM撮影から見学させてもらうことになった。クローバーの社屋の4階フロアはスチール用の撮影部屋が3部屋、CM用のスタジオが1部屋大きめに取られている。 そして雅たちのようなプロデュースする側の控え室があり、その隣に会議室がある。会議室も社員用ではなく、外注の人専門の人たち用のものだ。タレントの控え室が5部屋ある。 川嶋も最初に2人が現れた時、その姿にピンと来なかった、というのが正直なところだ。160cmの身長の少し気が強そうな顔の女性と170cmくらいのモデル体型の優しそうに微笑む男性が来て、「休憩時間にお疲れを取るために甘いものをどうぞ」と明らかに手作り感満載のお茶菓子まで演者、スタッフ全員に手渡しをしながら一人一人に挨拶をして回ったのだ。 その時にふわりと感じたゆりの花のような匂い。軽く香水を使っているのか?というレベルだったが、首のチョーカーがΩだということを物語っていた。 ――あの人、どう見てもβにしか見えない…… 『初めまして。この度CMの企画を出させていただいてる杉本と申します。撮影終了までの間ですが、よろしくお願いします』 『初めまして、川嶋悠真と申します。失礼ですが、現場にはいつもこういったことをしてらっしゃるんですか?』 『いいえ。今日は社長からのご依頼をいただいたので、ご用意させていただきました。長丁場になるのは存じてますので、お茶請けは甘いものか良いと思いまして。川嶋さんはこちらのフレッシュシリーズ3本とお聞きしてます。また、どこかの現場で、僕たちの作品とご一緒できるといいですね。そのために僕も頑張ります』 と微笑まれた。そうかと思えば嶺岸に渡す時には大した挨拶をしていない。だからといって雑ではなく、 「これは砂糖少なめにしてあるからそんなに甘くないし、コーヒーにも合うと思うけど……マサミさんは甘い方が良かったですか?」 「ううん、あたしも甘くない方がいいの。気遣いありがとうね。本当にいい子。」 照れくさそうに微笑み、また嶺岸を見て 「本当にその服も髪も似合ってる、もう1回大学生してくる?」 と冗談を混じえながらクスクス笑っていた。そしてCM撮影用の部屋へ向かいスチール撮影の部屋から出た途端に 「αの人は抑制剤待機!!」 の指示が出た。使わなかったら返却らしいが。嶺岸だけ抑制剤を渡されない。どうしても2人を見比べて目で追ってしまう。 特別に美形と言う訳ではないのに、纏う空気がものすごく柔らかい。発情期でもないのにフェロモンが溢れてしまう『特殊Ω』 Ωの自分ですら、いい匂いと感じる甘さ。 見たこともない新人への気遣い。制作サイドとして完璧な身の振る舞い。とてもΩとは思えない立ち回りは見事と言わざるを得ない。 女性向けのCMもこちらはOLのカジュアルからオフィスファッション、をメインにした撮影が数本入っていた。キャピキャピ系OLから、オフィスの中のシーンまで、を一通り流してみる。オフィスカジュアルとオフィススーツ、服装自由、キャピキャピ系はそれぞれ、それに見合うモデルがクローバーの方から選出されている。 「今日は、お二人の絡みはCMだけになると思います。個々のスチールから行きます。嶺岸さん入ってください」 大学生設定だけれど、カッコイイ部類の大学生風だ。色んなポーズの写真が撮られていく。 それを格好いい、と思いながら、自分には合わないであろうポーズを将来役に立つかもしれない、と頭の中に収めていった。

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