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第149話
「今日ではないですけど、彼らの撮影もこちらで行う予定ですよ。」
雅がそのまま答える。新人であってもクライアントとして対応する。決して他人を見下すような態度は取らない。αでもΩでも 平等だ。
「まだ、KAITOに会うのは早くないか?年齢は子供でも、おまえさんよりよっぽどプロだぞ?アレは。テレビで見てる姿だけだとあどけない少年と思うかもしれないが、現場での妥協は一切しないし、立ち位置から計算したカメラワークまで指示できる、自分を魅せるプロだよ。」
と玉妃が返す。けれどそれに対して雅も訂正を入れる。
「社長、それはちょっと言い過ぎなのでは?確かに彼は意見は出しますけど、そこまでのプロ意識を持ってやってる訳ではないですし。そこまでの気持ちがあるならワンステップ上を目指すと思うんですけど……」
「誰よりも雅さんのためになりたい、立派なプロ意識じゃないか。もう少し彼を認めてやっていいんじゃないか?あたしにはあんたに認められたくて躍起になってるようにも見えるよ?」
――雅さんの為……
川嶋に疑問が湧く。何故、βにしか見えないこのΩの為に、嶺岸やKAITOのような魅力的なαがこの人を選ぶ理由。番っているのに他のαまで惹きつける、そこまでの魅力があるような人物には見えない。
自分の方が若くて見た目だってΩの中では可愛くて、今の事務所からスカウトされた。
男女共にΩはいるけれど、Ωでβと結婚する人間はほぼいない。αと番になるか、愛人として子供を産まされる存在、要らなくなれば番の解除をされて、弱って命を落とすことが多い。
目の前の人に命を落として欲しいわけじゃないけれど、目の前の人は自分の欲しいものを全て手に入れているような気がして、妬みが生まれてしまう。憧れの人の番に選ばれ、憧れの人に似ている子役モデルに尽くされて……
業界に入り込めば演者、スタッフ、スポンサーや色んな人と知り合えることも増えるし、いい出会いがあるのだろうか……?目の前の人が羨ましくて仕方ない。
「川嶋さーん、ちょっと修正あるんですけど見てもらえます?」
「はーい」
「……新人のクセに色気づいて……」
「なにかあったんですか?」
「CM撮影の時にキスシーンを希望したんだよ
それが叶わないとなったら、標的をKAITOに移しやがった。あんなビッチでやってけるのか?」
「……コンセプト無視ですか……もう少し大人なデザインだったら、考えなくもないですけど、スポンサーや制作サイドには発情期は利用出来なくはないでしょうけど、そういった手段を取れるようなタイプには見えませんね。彼は1人にのめり込むタイプに見えます。」
「そうだろうなぁ……下手なことしたら勘違いするだろうね。嶺岸もコンセプト無視には否定的であたしに伝えてきた時の不機嫌な表情は見せたかったくらいだよ。」
クスクス笑う玉妃を見る限り、よっぽどの態度だったのだろう。それくらいで動揺するようでは芸能人のパートナーはしてられないだろうが、話の内容に嫌な気がするのは自分のパートナーなのに、という気持ちが強いからだろう。
記憶を失う前はこんな気持ちになったことは無い。理由は多分わかっている。記憶を失う前に言われていた言葉を記憶を失ってから、直接言われていないから、だと思ってる。
『オレの唯一無二の人』
その相手としか番う気はない、と言いながら、現状はお試し期間みたいな状態だ。子供たちがいなければ一緒の生活だってどうなっていたかわからない。皮肉なことに『浬』の存在が、2人を繋いでいるに過ぎなかった。
きっと、それは浬にとっては不本意なことかもしれない。彼のライバルは父親である。それは役者としても大きいだろうが、男として、という部分も大きいように見てて感じることもある。雅の存在はさておき、だ。
躰を繋いだことにしても、彼なりに確認したいことがあったことからだということも理解していた。だからこそ、薬を飲み始めた日を確認して、大丈夫な日だと判断したから了承をした。たぶん、薬を飲み初めて日が浅くて妊娠の恐れがあるようであれば、彼は引いただろう。
発情期前に発情させたのは自分だ、という責任から彼は体を繋いだ。今はまだ、それだけの存在でしかないというのに、中途半端な状態で繋がっている。
いつか、また言ってもらえるような日が来るのだろうか……
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