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第157話
「『運命の番』と出逢ったら、すぐにわかるのよ。もうね、躰が反応しちゃうの。躰っていうより細胞が、なのかしら?あ、この人だ、って分かっちゃうの。Ωは番関係を結んだら一生、その人だけしか愛せないの。
『運命の番』は特にその絆が強いわ。運命を拒んでも逆らうことは出来ない。私もパートナーも番を作る気はなくてお互い逃げてたんだけどね。でも、運命には逆らえないのよ。
どう足掻いても、その人が欲しくてたまらなくなるのよ、お互いにね。ただ、傍にいてくれるだけでいいのよ。
まだ子供の嶺岸くんには難しいかな?」
彼女……宮原麗子はそう言って笑った。既婚者であること以外はプライベートが全く謎な女優なのは今でも変わらないようだ。
『運命の番』と出逢ったαは番のΩにしか興味を示さない、とも言われている。そういった意味でも『ツヴァイ』の社長も奥さんがいることを匂わせてるαだが、Ωがたくさん仕事をしていても興味を示さないし、βの体調不良も含めフェロモン対策用の看護師まで待機しているのだから、徹底している。
社長がそのような考え方だから、ツヴァイは成り立っていることは間違いないだろう。事故があったにしても、それに対処する部署を作り、企画部と営業部に分けて、その仕事を振分けた対応の速さは、流石の一言だ。社長の嗅覚はかなり優れていると言えるのは、間違いがあってはならない、と、同じビルでも違うエレベーターを使うフロアに新部署を構えている。
エレベーターホールで自社同士の事故を避ける為には最善と言えるだろう。始終業時間も少しずらしている。営業は出たら出たまま直帰もあるので終業時間はあったりなかったり。現場での報告書などもメールでできることはそれで済ませられる分、営業に入ったαやβも楽に仕事が出来る。風通しのいい社風は社会的地位が低いと言われるΩでも、逆に優秀と言われるαでも対等に働ける環境だと言えるだろう。
雅たちが出産時期を同じにするのは、その企画を立てる上での産休も同じにする為で、2人は自宅で仕事をしていても常にネットで繋がっているようなものだ。
ツヴァイでの仕事の他にクローバー社の子供服に関しては会社を通さず、2人の個人事務所的なもので子供たちをモデルに使っているのだから、実質、トップは白石、ということになるがどこの事務所にも所属していない小学生組は特にスカウトの話が多く、KAITOにも話は来るものの、YUMENOも負けないくらいのオファーが届いている。
もちろん3歳児の方も上二人よりは少ないとはいえ、争奪戦を繰り広げられているのは雅や白石が受ける電話の向こう側だ。
クローバー社専属子供モデルとして、雅が代表になっている会社の契約となっている。那恵の『あたしは代表の器じゃないんだわ』の一言で雅にそのポジションが回っただけのお飾社長だと本人は思っている。
どちらの仕事でも、2人が案を出し合って融合させたのが2人の仕事のスタイルに定着している。子供を産む前からのスタイルでそのまま続いているのがあの二人だった。
だからこそ、休む期間も同じであるように子供を産んだ、も言うのも頷ける話ではあった。
『運命の番』を求めた嶺岸と『運命の人』を見つけた白石。一見同じように見えて大きく違うところはバース性。白石や雅の父親もβの母親を選んでいる。αは優性であっても必ずΩと添い遂げるとは限らない。
Ωはαを確実に産む存在として希少な存在でもある。優秀な遺伝子を残したいαやαに恵まれなかった会社経営者の家庭などで利用されることもある。人権が希薄なのもΩである。
そういうΩを取り扱っている場所があることも問題なのだが、そういった場所がないと命を落としてしまうΩがいるのだから、命を守るという意味では良いのかもしれないが、物のように扱われても何も言えないのが現状だ。
その境界線が曖昧な中で、そこに自分のパートナー……『運命の番』となる人が居なくてよかったと酷い言い方になるかもしれないけれど、良かったと思ってしまう……
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