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第159話
1つ目は樹から『番の解除』をされない為。
2つ目は浬からのアプローチを拒絶する為。
Ωは1人の番しか持てない。他のαが手を出そうとすれば体調を崩す。下手をすれば、それが原因で死に至る。樹との番を解除させて、その位置に自分を置こうと考えている浬は、まだ子供だと言うのに、そのポジションに着けるまでの年数を計算できてない。
Ωにとっての『番』の意味を理解出来てないからこその言葉だったのだろうが、これから学校でそのことについても学ばされるだろう。それがどれほど恐ろしい事だったのかを、聞いて学んでくればいい。樹の言葉では信じることはないだろうから。浬が『運命の人』と出逢ってくれるのが一番いいことだとは思っている。
『運命の番』と出逢う確率よりもβも視野に入っていれば、その運命も見つけられるだろう。雅の父や白石がそうであるように。
「……なぁ、雅のお兄さんって『運命の番』と一緒になったのかな?Ωだったよね?奥さん」
急に変わった話に疑問に思ったのか、隠れてた顔が上掛けから離されて、疑問を持った表情で
「……うん。Ωの女性だね。社内恋愛って聞いてるから、運命の番かどうかはわからないけど、相性は良かったんだろうね。僕に対する態度も変わったし……もしかしたら、そうなのかも」
樹の職業柄、都合が合わなくて親戚だけで集まる、ということが少ない。子供たちもモデルをやってる関係上、ホイホイと外に出られないのが現状だ。樹の家は大きな会社ではあるが、正月は親戚、取引先などが集まるパーティーのような状態で、子供専用ルームがあっても、従兄弟なのか違うのか、よくわからない状態になっている上に、KAITOとAKITOだ、と囲まれてしまえば、余計にわからないだろう。
パーティー会場に入れるのは13歳以上なので、発情期が突然来ても対処できるように、子供だけのパーティールームでの事故など目も当てられないし、そこに雇われてる保育士に責任がいくのも理不尽な話だ。その中にαだけではなくΩもいるはずだが、浬のお目当てになるような相手はいないようだった。
「……今度お義兄さんと話してみたいなぁ……」
ボソッと呟いた言葉に固まるのは雅の方だ。
「……どうして?」
「雅が狙われる心配がないなら、安全だろうし、子供の頃、どう思っていたのか聞いてみたい。『運命の番』だと思った感覚がどんなだったのとかも、聞いてみたい。人それぞれその感覚の違いがあるだろうからね。役作りに活かせるじゃん?子供の頃聞いたことがあるんだ。
『運命の番』は番う気がなくても逃れられないって。その人は運命に抗おうとしたけど、ダメだったって言ってた。だから傍にいるんだって」
「え?その話、初耳なんだけど……?」
「子供の頃、ドラマで親子役をしていた人なんだけど、子供を産む気もなくて、その人もパートナーの人も番を作る気はなかったそうだ。だから会わないようにお互いが避けていたけど、運命からは逃げることは出来なかったって。オレみたいに求める人だっていたのに、その人は出逢わなければ良かった、って言うんだから不思議だよな。」
「……そうだね。僕も番う気は全くなかったし、大山さんもバリバリ仕事していくキャリアウーマンで子供を育てる自分を想像出来ないって言ってたのに、今ではいいお母さんしてるし、人ってどこに岐路があってどう選択していくのか、わからないものだよね。バリバリ現場に出てたの頃の僕たちって、本当に仕事に骨を埋める、みたいな気持ちで仕事してたし。」
「今でも似たような仕事スタイルじゃないの?雅は仕事にストイックだと思うよ?」
「ううん、子供がいる分、かなり違うと思う。やっぱり子供優先だし、以前と同じように現場に出ることはなかなかないし……でも社長が選んだ営業の人は、すごく優秀で全て汲み取ってくれて、作りたかったものを作り上げてくれる。αってやっぱりすごい人が多いよ。」
「雅が他人のαを褒めるってよっぽどだな。」
「そう……かな……でも、今の僕の周りのαは成功者ばかりだからね。父も兄だってそれなりに出世してるし、うちの社長や玉妃さん、樹だって、芸能界でずっと第一線で活躍してる。」
営業のαたちだって野心がないわけではないだろうから、今はノウハウを学んでいるとしても、業界にツテを多く作って、そのうちに独立を考えてる人間もいるだろう。その時に今度は企画力の強い人間を引き抜こうとする奴も出てくるだろう。雅たちペアが狙われそうだが、2人は早々簡単には口説き落とせないだろう。
今の条件が最適であることと、副業として個人での仕事を請け負ってることに対して社長が黙認してること。どうしたってクローバー社の子供服の絡みは抜け出せないし、会社を立ち上げた人間なら、そこを黙認せずに会社の利益にしたがるだろう。2人のペースを崩されることを嫌うだろうからだ。
「ところで、お腹は空いてない?ここで食べる?リビングに行く?」
「リビングで……」
バスローブを身につけさせ、そのまま抱き抱えてリビングへと雅を連れていった。
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