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第164話

「こっちの撮影はどうよ。子供たちはすごいよ〜KAITO先生が完全に仕切ってる。誰の仕事なのかわかったもんじゃないよ」 ケラケラと玉妃は笑っている。雅の原案、シナリオで、ツヴァイのαとβペアの担当者が現場に来ている。ツヴァイの社員同士だからといって、雅たちとは面識がないのだから、知らない人も同然だった。企画の人間が他の部屋にいると知れば、営業側も気分が悪くなるだろうから、そこは接点を持たせないように玉妃が配慮するところだ。 「KAITOって、あの専属の子ですよね……?」 「そう。赤ん坊の頃からうちでモデルしてくれてる子。まぁ、彼もαだからね。出来が良すぎてCMじゃ無垢な子供だけど、現場では鬼だよアレは。自分の見せ方もよく知ってるからカメラマンにまで指示出してるよ。」 その言葉に苦笑いをしなければならないのは樹だ。子供の頃の撮影でそんなことをしたことはない。全て広告代理店のシナリオ通りに仕事をこなし、それが正解だと疑わなかった。 浬補助のCMは子供らしさを見せながらも、服のアピールも子供心をくすぐる魅せ方をしている。可愛いモデルが着てるから良い服、ではなくて、誰が着ても似合うと思わせる雰囲気を存分に醸し出している。 その指示に従って夢妃も妃那も昶も自由でありながらも『魅せる』ことを学んでいた。 親たちによって次々に着替えていく服は、その時々に応じてのCM撮影から始まっている。その後は各衣装に身を包んだ通販用のカタログの撮影に入る。玉妃のところは店舗はあるが全国展開してるわけでもないし、たまにバイヤーが店に置きたいと交渉はしてくるものの、その数はそれほど多くない。 その店では数着を店の一点物として置いているから、売れてしまえばその店からはなくなってしまうし、同じものではなく、次の商品を発注してくるのだから、専門の店舗より多少の金額の上乗せや、サイズの問題も出てくる。 大人用でも、ちょっとした高級店での取扱はしてもらっているが、やはり自分のサイズを取寄せたい、という注文は多い。関東圏に自社店舗が集中しているが地方までは手が伸びていないのが現状だ。だからこそ、通販カタログが必要になってくる。 この本社の1階2階も店舗になっている。1階がレディース、2階はメンズになっている。それぞれのフロアの一角に子供服が置いてあるスペースがある。子供服は立ち上げてからまだ日が浅い。年単位で動いてると言っても成長の速い子供にとっては、ピッタリのサイズの服としては少々高級品だ。 大人用と言ってもターゲット層は比較的若者狙いでもあるし、デザイナーも着いている。 子供服は那恵の思いつきだったし、2人が妊娠を決めたことがきっかけだった。雅は玉妃にその面でも感謝をしている。 仕事が恋人で、体の関係はありながら、子供を欲しがらなかった那恵が、子供を産む予定が出来たから、玉妃の子供を産んでもいい、と言い出した。大学時代にひと目で運命を感じて、この女性に自分の子供を産んで欲しい、と思ってからアプローチはしてきた。 那恵の中では抱く相手と抱かれる相手がはっきりと分かれていて、βやΩの女は抱かれることを望み、αは抱くことを望む。那恵の場合はどちらかと言えば抱く方が好きなタイプだったが、抱かれたい、と思った時には玉妃のところに来る。誰とベッドを共にしても、那恵が抱かれるのは自分だけ、と思ってきたから待つことが出来た。だから、徹底的に感じさせて溺れさせる。他のαに目が向かないように。 子供が欲しい、と言い出した時、那恵は迷うことなく玉妃を選んだ。Ωの相棒に出来て女の那恵が出来ないことはない、と思ったのだろう。子供を作ることも出来るが、玉妃だって女として生まれている。那恵が望むなら、抱かれることだって出来るのだ。 そのきっかけになったのが今、目の前にいる嶺岸にもある。イメージの定着もあるが、感謝の気持ち、マイナーブランドからの付き合いも相まって今現在がある。それまでは仕事絡みの付き合いでしか無かった嶺岸と、まさか家族ぐるみの付き合いになるとは、その時は思ってもみなかった。人の縁というものは不思議だ。 「子供たちに負けてる場合じゃないよ?CM、ポスター撮りは今日明日で終わらせるつもりで。カタログモデルの人はまだ少しかかるだろうけど、よろしく頼むよ!!」 玉妃の声に『はい』といい返事が返ってくる。それに満足気にしているとツヴァイのαが 「子供服部門の、その……KAITOの撮影風景を少し見せていただくことは可能でしょうか?」 「……どうして?」 玉妃はその営業部の男の顔をじっと見つめて、なぜその必要があるのかを簡潔に聞き返した。

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