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第165話

「あ〜、ごめんね、スタッフやらキャストが多くて名前覚えきれてないんだけど、君はツヴァイの何さんだっけ?」 玉妃の雰囲気にクローバーの専属のスタッフ、カメラマンたちが緊張の面持ちでそれを見ていた。特殊Ωがいる部屋に他人のαを入れることに酷く敏感になっている様子だった。 ただでさえ、雅が来る日はα全員のポケットの中にはα用の抑制剤を持たされているのだから、玉妃はそこの最高責任者としてスタッフ、キャストに気を配らなければならない。 さらに雅が『特殊Ω』というのも加わり、ピリピリとした雰囲気を醸し出していたからだ。 ただならぬ雰囲気に飲まれているのは玉妃を知っている人間だけで、中薗ともう1人のアシスタントのβの男はその様子を不思議そうに見ているだけで、玉妃の怒りにも似たオーラは感じていないらしかった。 それをわかっているのかいないのか、図々しくも男は自己紹介を始め出す。 「私はツヴァイの中薗(なかぞの)と申します。子供服についてもCMなどで拝見しておりますが、彼らの子役としての可愛らしさ、そして魅せ方がとても興味深く、勉強させてもらえれば、と思いまして申し出ました。」 玉妃はKAITOの名前を出したことで、こんなことになるとは思っていなかった、という様子で少し考えている。子供たちの撮影現場には親であり、プロットを作り上げた二人と、毎回同じカメラマンが入っていて、外部に情報を漏らすような事は一切していない。 「……ふぅん……そう。子供たちの撮影(げんば)には必ず同じメンバーしか入れないことにしてるんだ。 だからこそ、情報漏洩があったりしたら困ることが多々ある。それを絶対に守ってもらわなきゃならないし、そこで見たものは貴方の頭の中だけで一切口外しないことを約束してくれる? それと、どんなに話が聞きたくても、椅子に座っている人には絶対近づかないと約束してくれるなら許可を出そうと思うけど、嶺岸、あんたからはなんかある?」 嶺岸に話を振ることに中薗は首を傾げる。 「言いたいことは社長が言ってくださったので、大丈夫だと思います。社長ももちろん、同席してくださるんですよね?」 「回りくどい言い方してんじゃねぇよ。心配なら心配って言えよ。」 玉妃は中園に向き直って 「長い時間は取らないよ?それと、α用の抑制剤は必ず所持すること。その椅子に座っている人は『特殊Ω』で嶺岸のパートナーだ。 番になってるけど、フェロモンがダダ漏れだから、万が一にも彼に倒れられたりしたら、こちらの撮影にも影響が出る。だから絶対に近付かない、触れない、話さない。 何があっても近づくことは禁止だ。話すのはもう1人、女性がいる。そっちとだけにしろ。 ただし、触れるのは禁止。そっちはあたしのパートナーだからね。それと、子供服の撮影はウチと直接契約をしてる人間に頼んでる。 だから、その話も禁止だし、ツヴァイの名前を出すのも禁止。それと、CMで見てるほど、子供たちは他人に優しくないことも頭に入れておきな。他になにか質問は?」 「はい。ありません。先程社長が仰っていたKAITOさんのプロとしての魅せ方、どう指示を出しているのか、どう言った立ち位置をどのように指示しているのか、という部分に大変興味を持ちました。是非、見学、勉強させて下さい。お願いします。」 中薗は深く頭を下げた。そして振り返り、嶺岸にも頭を下げる。番になったΩに手を出したりしたらどうなるのかをαなら理解してない訳では無い。けれど、雅の場合は、かなり特殊例であることには変わりない。注意に注意を重ねることに越したことはない。 仕方ない、といった様子で玉妃は子供たちが撮影する現場に中薗を連れていった。

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